学習テキスト

第 1 章 総論
1−1 民事訴訟の意義・目的

    問題第1問

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

    問題第6問

    問題第7問


問題第1問    

○ 民事訴訟の目的をめぐる議論の概要を理解している。

(四)民事訴訟の目的
 T)はじめに
 ・民事訴訟の目的に関して、従来、紛争解決説、私法秩序維持説、権利保護説が対立して主張されていたが、これらは三者択一関係にあるものではなく、これらのいずれもが民事訴訟の目的と考えるべきである。

 ・すなわち、紛争解決、私法秩序維持、権利保護の三つの要請が、民事訴訟制度の運営を方向づける基本的価値であり、個々の問題の解釈にあたっては、これら三つの要請をうまく調整して具体的に妥当な結論を導くことが必要である。


問題第2問    

○ 民事訴訟とそれに関係する手続(民事執行、民事保全等)やその特別手続(人事訴訟、行政事件訴訟等)との関係や相違について、その概要を説明することができる。

・広い意味での民事訴訟には、訴訟によって確定した権利を実行する執行手続(民事執行法による規定)やそのための準備段階にあたる民事保全手続(民事保全法による規定)、および債権債務に関する多数当事者の関係を規律する倒産処理手続もこれに含まれる。

※また、行政訴訟も民事訴訟に含めて考える場合がある。これは民事訴訟法の規定が原則として行政訴訟にも準用されるためで(行政事件訴訟法第7条)、刑事訴訟法によって規律される刑事訴訟と対比される。


1−2 民事紛争解決のための手続

問題第3問    

○ 民事訴訟以外の民事紛争解決制度との関係で、民事訴訟の特徴を理解している。

ADRの重要性の高まり
  ・私的紛争(民事事件)の対象となっている権利・義務は、もともと当事者が自主的に決定できるものであるから、訴訟=判決という民事訴訟手続が必ずなされるわけではなく、自主的紛争解決手段を選択することができる。

  ・また、民事訴訟手続は、必ずしもすべての私的紛争を解決する手段として適切というわけではない。
  ・特に近年は事案の性質や当事者の事情に応じた多様な紛争解決の必要性が高まってきている。
@利用者の自主性を活かした解決、
Aプライバシーや営業秘密を保持した非公開での解決、
B簡易・迅速で廉価な解決、多様な分野の専門家の知見を活かしたきめ細やかな解決、
C法律上の権利義務の存否に止まらない実情に沿った解決を図ることなど、柔軟に対応するためには裁判外の代替的紛争解決手段(Alternative Dispute Resolution=ADR)の重要性が高まっている。

U)裁判所内のADR
 1)裁判上の和解
  ・民事訴訟自体においても、裁判所の判決によらない紛争解決方式として、裁判上の和解がある。
  ・裁判上の和解には、起訴前の和解(275条)と訴訟上の和解(89条、257条)がある。
  ・裁判上の和解は、裁判所の関与はあるが、当事者の互譲による自主的紛争解決手段である。


問題第4問    

○ 調停制度及び仲裁制度について、その意義、種類及び手続の概要を説明することができる。

※裁判所による調停
  ・一般の民事紛争についての民事調停(民事調停法2条)と家庭事件について家庭裁判所が行う家事調停(家事審判法17条)がある。
  ・いずれも、裁判官と民間人とで構成する調停委員会が、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した民事紛争の解決を図ることを目的とする手続である。
  ・裁判所による調停は、原則として両当事者間に合意が成立しないと調停が成立しないという点で、自主的紛争解決手段である。
  ・当事者間に成立した合意が記載された調書は、確定判決と同一の効力を有する(民事調停法16条、家事審判法21条1項)。

※仲裁
  ・紛争両当事者が任意に処分できる法律関係につき、仲裁人の仲裁判断に服するという当事者間の仲裁契約に基づき、仲裁人の判断によって紛争を処理する方法がある(仲裁手続、仲裁法1条〜55条)。

  ・仲裁は、紛争当事者の合意によらず、仲裁人の判断による点で、自主的紛争解決手段ではないとも思えるが、当事者間の仲裁契約という合意に基づくことから、なお自主的紛争解決の性格を有しているといえる。


1−3 訴訟と非訟

問題第5問    

○ 非訟事件の種類について、その主要な例を挙げることができる。

(一)非訟事件の意義
 T)
・非訟事件とは当事者間の権利義務に関する紛争を前提とせず、紛争の予防のために裁判所が一定の法律関係を形成するという性質の事件をいう。

・非訟事件とされる事件は、その紛争性の程度の差異から非争訟的非訟事件と争訟的非訟事件に分けられるが、両者の差異は相対的なものである。

非争訟的非訟事件
・紛争性が希薄である非訟事件のことである。国権の作用としては司法には該当せず、むしろ行政に含まれるが、沿革的又は政策的な理由により裁判所の権限に属するとされている。

※非訟事件手続法
・財団法人の寄附行為の補完
・株式会社の検査役の選任

※家事事件手続法別表第一に列挙される審判事項
・後見開始の審判
・失踪宣告
・相続財産管理人

争訟的非訟事件
・紛争性が高い非訟事件のことである。後述のように、紛争性が高いがゆえに訴訟との区別が問題となる。

・借地借家法第17条に規定する借地条件変更事件
・家事事件手続法別表第二に列挙される審判事項(婚姻費用分担、親権者の変更、遺産分割など)
・DV防止法に規定する保護命令


問題第6問    

○ 非訟事件手続の概要及びその訴訟手続との差異を理解している。

(二)具体的な非訟手続
 T)家事審判
・家事審判法の制定により、親族間の扶養、遺産分割、夫婦の同居、推定相続人の廃除などは家事審判手続によって処理されている。
 ・この家事審判手続においては、非訟事件手続法が準用される。

 U)借地非訟事件
 ・借地をめぐる紛争の処理のうち、一定の場合については、借地非訟事件とされる。
 ・この借地非訟事件の手続は、原則として、非訟事件手続法の規定が準用される。
・たとえば、地上建物の増改築につき当事者間に合意が整わない場合には、裁判所は増改築についての土地所有権や賃貸人の承諾に代わる許可ができ、また、土地賃借権の譲渡・転貸の承諾に代わる許可の裁判をなすことができる。

(三)訴訟と非訟の区別・具体的相違
 T)訴訟と非訟の区別
・訴訟は、実体法を具体的に適用して権利義務の存否を判断する司法であるのに対し、非訟は、国が私人間の生活関係に公権的に介入して調整を図る民事行政であるとして区別される(通説)。

 U)訴訟と非訟の具体的相違
 1)訴訟
・二当事者対立構造、処分権主義、公開主義などを原則とし、判決により当事者の権利義務を判断する。

 2)非訟
・対立当事者は不要で、処分権主義は排除され(職権探知主義が原則)、
非公開が原則とされる。
  ・決定により、裁判所の判断を示す。


問題第7問    

○ 訴訟の非訟化の限界について、判例・学説を踏まえて、説明することができる。

・家事審判手続などの非訟事件に関しての非公開の審判手続きは合憲とされています。
・理由づけについては、判例では、既判力を生じない点と民事訴訟の道を閉ざすわけではないため違憲ではないとしています。(峻別論)

・憲法32条の裁判を受ける権利の保障の観点から事件類型に応じた裁判を受ける権利の保障というのが考えられるべきであり、
1)非訟手続の特質に適合する事件であり、
2)非訟化による当事者の地位の弱体化を実質的に是認するに足りるだけの客観的な理由があることを非公開手続の合憲性を基礎づけるものと考えいくのが現実的であると思われます。
※新民事訴訟法講義中野他11以下〔中野貞一郎〕(有斐閣・第2版補訂2版・2008年)参照。