学習テキスト

第1章 憲法総論
1−1 憲法の観念及び立憲主義
     


−目次−

以下はこのページのもくじです。

    問題第1問

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

    問題第6問

    問題第7問

    問題第8問

    問題第9問


問題第1問  

○「形式的意味の憲法」及び「実質的意味の憲法」の意味及びその異同について詳細に理解しているか。

(一)形式的意味 
これは,憲法という名前で呼ばれる成文の法典(憲法典)を意味する場合である.形式的意味の憲法と呼ばれる.

たとえば,現代日本においては「日本国憲法」がそれにあたる.この意味の憲法は,その内容がどのようなものであるかには関わらない.

(二)実質的意味  
これは,ある特定の内容をもった法を憲法と呼ぶ場合である.成文であると不文であるとを問わない.

実質的意味の憲法と呼ばれる.この実質的意味の憲法には2つのものがある.

・さらに、実質的意味の憲法は@固有の意味の憲法とA立憲的意味の憲法とに分かれます。


問題第2問  

○「立憲的意味の憲法」(近代的意味の憲法)の意義について、「固有の意味の憲法」と対比して理解しているとともに、それと関連付けて、憲法の制限規範性及び憲法典の硬性規範性について詳しく理解しているか。

(1)固有の意味  
・国家の統治の基本を定めた法としての憲法であり,通常「固有の意味の憲法」と呼ばれる.

国家は,いかなる社会・経済構造をとる場合でも,必ず政治権力とそれを行使する機関が存在しなければならないが,この機関,権力の組織と作用および相互の関係を規律する規範が,固有の意味の憲法である.

この意味の憲法はいかなる時代のいかなる国家にも存在する.

(2)立憲的意味  
・実質的意味の憲法の第2は,自由主義に基づいて定められた国家の基礎法である.

一般に「立憲的意味の憲法」あるいは「近代的意味の憲法」と言われる.

※18世紀末の近代市民革命期に主張された,専断的な権力を制限して広く国民の権利を保障するという立憲主義の思想に基づく憲法である.

その趣旨は,「権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていない社会は,すべて憲法をもつものではない」と規定する有名な1789年フランス人権宣言16条に示されている.

この意味の憲法は,固有の意味の憲法とは異なり,歴史的な観念であり,その最も重要なねらいは,政治権力の組織化というよりも権力を制限して人権を保障することにある.

憲法の制限規範性について
・立憲的憲法は自由主義に基づく以上、国民の自由を、国家権力の濫用から守る憲法である。

⇒このように国家権力の濫用を防ぐために、国家権力に一定の枠を定め、制限する基礎法であるということでもある。

政治権力の組織化よりも、権力を制限して国民の人権を保障することに主眼点がある。 これを制限規範性という。

憲法典の硬性規範性について
・また、実定法体系の頂点に位置する憲法が朝令暮改(ぼかい)されては、法的安定性が失われてしまいかねない。だがしかし、憲法が硬性規範性をとる真の理由を、以下に述べる。

 もとより憲法が国家権力を制限する以上、もし国家権力の部分を成す立法権が根本法を改正する資格を持っているとすれば、どうか。

それは国家自身による自己抑制にすぎず、国民の人権を守れない恐れがより深刻化するのである。このように、憲法は、主権者である国民が特別の手続きによって改正せねばならないことを、憲法典の硬性規範性という。


問題第3問        

○「成典−不成典」、「硬性−軟性」及び「欽定−民定−協約」など、憲法を適切に分類することができるか。 

・成文憲法とは、とくに憲法典として一定の形式をもった憲法規範をいい、通常は一個の法典であるが、増補などを加えて数個の法典からなることもある。今日ではイギリスの場合を例外として、ほとんどの国が成典憲法をもっている。

時として「イギリスに憲法無し」といわれるのは、このような成典憲法をもたないという意味である。

・不成典憲法とは憲法典として特別の形式を持たず、成典憲法がその性質上、実質的意味の憲法の全てを包含せず、その一部についてのみ存しうるのに反して、不成典憲法は、実質的意味の憲法の全部に及び、不文法のほか、特別の憲法典とされない憲法規範のすべてを包括する。

硬性憲法と軟性憲法 
硬性憲法とは、成典憲法の改正の場合に、普通の法律に比べて、とくに慎重な改正手続きを必要とするものをいい、

軟性憲法とは、普通の法律と同じような手続きで改正することができる憲法を言う。

※欽定憲法
・君主によって制定された憲法(大日本帝国憲法など)。

※民定憲法
・(直接または間接に)人民によって制定された憲法。

※協約憲法
・君主と人民により制定された憲法。


問題第4問

○憲法の最高法規性の実質的根拠を理解しているか。

※さまざまな法形式は、ただ雑然と並立しているのではなく、憲法を頂点として、効力の上下関係に従った体系をなして存在しているのであり、国内法の全法形式のなかで、憲法が最も強い効力を有することを、憲法自身、「この憲法は、国の最高法規である」(98条1項)、という言葉で表現している。

すなわち、憲法に反する一切の国内法は、その法形式のいかんを問わず効力を有しない。


問題第5問  

○憲法前文の法規範性及び裁判規範性の有無について説明することができるか。

※日本国憲法の前文は、憲法の一部をなし、本文と同じ法規範的性格を持つと解される。

この法規範的性格の例として前文1項3段、4段の重要な「人類普遍の原理の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」という規定は、憲法改正に対して法的限界を画し、憲法改正権を法的に拘束する規範であると解される。

・しかし、前文は一般に裁判規範性は有514さないとされている。

S51.8札幌高裁判例においても憲法前文中に定める「平和のうちに生存する権利」は、裁判規範として何ら現実的・個別的内容をもつものとして具体化されているものではないとされている。

・これに対し、学説は裁判規範性を否定する通説以外に肯定説も存在する。否定説の根拠とされている理由は

@前文の内容は、一般条項的な抽象的なものである。

A法律性を有するからといって、憲法には、統治の組織規範のような必ずしも裁判規範でないものも相当ある。

B前文の内容は各条文に具体化されているので、前文は各条文の解釈の基準にはなるが、裁判所において判断の基礎となるのは具体性をもった各条文である。

C憲法条文が前文の内容を網羅しているため条文適用を以て不十分となる実際の余地が無い。

※肯定説は「前文の憲法原則が本文に具体化されているだけでは、前文の裁判規範性を否定できない」としフランス第五共和制憲法前文の応用を比較法的に指摘しているが、学説として完全に肯定を立証できている内容に至っていない。

・以上の事実から導かれる通り、憲法前文は他の法律同様、法律の最初に付され、その法律の目的や精神を述べた文書にとどまり、憲法各条文の規定の基礎となる、内在する価値観・原理を確認する重要な意義は有するものの、前文自体を以て裁判を行える具体性は欠いており、具体的な裁判規範にはなり得ないと考えられる。


問題第6問    

○憲法慣習及び憲法判例の法源としての性格について説明することができるかという問題について。

※国民主権の理念を徹底させる立場からは、国会や内閣と異なり、国民に対して政治責任を負うこともなく、従って必ずしも国民の意見を反映していない裁判所の裁判が、法源として扱われることには疑義を呈し得る。

※これに対しては、判例を法源とすることによって国民に裁判の結果についての予測可能性を保障し得ること、
そして法律によって判例を覆す権限を持つ国会が判例を放置すること自体、国会の黙示の承認を意味すると判断して反論することができる。

・判例が狭義の法源にあたることは承認できるとしても、最狭義の憲法法源、つまり合憲・違憲の判断基準になり得るか否かは別問題であって、この問題は、慣習を最狭義の法源と考えるべきかという問題の一事例として提起できる。

判例が最狭義の憲法法源であるとすると、判例は同じレベルの後法として憲法典を改廃し得ることになるので危険性が生じることになる。


問題第7問    

○日本国憲法の基本原理の特色について、大日本帝国憲法の基本原理と比較して、理解している。

※『大日本帝国憲法』は近代立憲主義に基づく政治体制をつくったという意味で重要な意義をもっているが、自由民権運動による議会政治の要求に対して、薩長藩閥の有司専制政治を守ろうとするものであったことである。

伊藤博文らが狭い意味の法治主義に基づく『プロイセン憲法』を参考にして、天皇の権限の極めて強力な憲法を制定したのも国政を維持するうえでは問題が多かったことである。

※『日本国憲法』は「法の支配」、『大日本帝国憲法』は狭い意味の「法治主義」に基づいていて、前者が人権を守るためのものであるのに対して、後者は主権者の制定した法によって権利が与えられるという立場を作り上げていたことである。

・憲法という最高の法律に全くしばられないところに天皇が存在し、憲法上になんの定めもない御前会議が 日本の国内の最高機関だったことである。

また、天皇は全ての法律の範疇から抜け出たところに存在する最大でそして唯一の権力者だったことが、いわゆる絶対君主制といわれる所以である。


問題第8問      

○近代立憲主義の意義及びその歴史的展開について理解している。

※「近代立憲主義は近世ヨーロッパで誕生したといわれている。

その近世ヨーロッパでは、宗教改革後の宗派間の激烈な対立を経験し、他方で大航海を通じて多様な異文化に触れ、価値観・世界観の多元性を事実として受け入れざるをえなくなった人々は、通約不能な価値観・世界観を享有しようとする人々が、それでも協働して社会生活の便宜とコストを公平に分かちあう社会をいかにして構築するかという課題に直面した。

近代立憲主義は、絶対君主の有する主権を制限することで、個人の権利・自由を保護しようとする動きの中で生まれ、先ほど述べた課題に対する答えとして生まれたものである。

その基本的な手立ては、人々の生活領域を私的なそれと公的なそれとに区分することである。

私的な領域では、各人の価値観・世界観に沿って生きる自由が保障される。

他方で、公的な領域では、価値観・世界観の違いにかかわらず、
社会全体に共通する利益(公共の福祉)を実現する方策が冷静かつ理性的に審議され、決定されなければならないのである。

このように立憲主義は、個人の自由を保護するだけではなく、公益に関する効果的な審議と決定の過程をも保障する。

※近代立憲主義は、18世紀の米仏革命における成文憲法の制定や、アメリカにおける違憲審査制度の確立(1803年のマーベリ対マディソン判決)において結晶化した。

それは、単に憲法が政治権力を枠付けるにとどまらず、どのように枠付けるか、という実質論にまでふみこむものであり、人権規定と違憲立法審査制度をその特質とする。

すなわち、近代立憲主義は、政治権力や多数者が侵害してはならない価値として個人の基本的人権を位置づけたうえで、それを制度的に保障するために、憲法に反する制定法を無効とする違憲審査制度を作り上げている。

つまり近代立憲主義は、政治権力が侵してはならない個人の権利を定め、政治権力と個人を対抗関係におくが、近年ではこうした公と私の峻別のうちに近代立憲主義の本質を求める理解もある。

立憲主義を自由主義の法学的表現と見なすこうした理解によれば、近代立憲主義とは、多様な価値観を持つ個人の公平な共存を実現するメカニズムであり、それが不可避の前提とするのは、16-17世紀のヨーロッパの宗教戦争において明らかになった、価値観(思想・信条・信仰)の多元化であるといえるのである。


問題第9問      

○国民主権、立憲主義、権力分立、法の支配及び法治国家の意義及び歴史的展開について理解している。

※国民主権の考え方は国民こそが政治の主役である、という考え方に基づく。

・主権という概念は中世封建社会に専制君主が自分の権力を正当化するために用いたのが始まりであったことである。

※主権には3つの意味があり、これが重要な国家の体制を位置づける。

@統治権(国家権力そのもの)を有している。
A最高独立性(体内的最高性、対外的独立性)がある。
B国政の最高決定権(国政のあり方を最終的に決定する権力)を有している。

※立憲主義とは
・政治権力の恣意的支配に対抗し,権力を制限しようとする原理をさす。

・1789年のフランス人権宣言16条の「権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていないすべての社会は,憲法を有しない」は,その簡潔で端的な定式化として知られている。

・立憲主義は,中世封建制社会で,身分的自由と身分制議会というかたちで存在したのが事実であり,そのような中世立憲主義は,市民革命期以後の近代立憲主義の成立・発展にとって,しばしば大きな役割を演じた(とくに,イギリスにおけるマグナ・カルタと議会制の伝統がその意味を作り上げている)。

※権力分立
・国権作用を複数の機関に分けて担当させ,それら諸機関を相互に独立のものとすることによって,お互いの均衡・抑制を確保しようとする制度,または,そのような思想をいう。

・立法・行政(執行)・司法(裁判)の3作用を三つの部門に分担させることが,今日通例となっており,そのような意味で,権力分立は,三権分立ともいわれる。

「権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていない社会は,憲法を有しない」(1789年フランス人権宣言16条)といわれるように,権力分立は,権力の濫用を防ぎ権利保障を確保するものとして,近代的・立憲的意味の憲法の不可欠な内容をなすものとされてきたのである。

※法の支配     
・法の支配とは、専断的な国家権力の支配を排斥し、権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理をいいます。
 
※英国で生まれ、英国・米国の法律の根幹的な考えとして発展してきた考え方であり、第二次世界大戦後、日本国憲法にもこの考え方が組み込まれることになる。
 
・日本国憲法は、第10章の条項により「法の支配」という英米憲法的原理を受け入れているが、さらにその具体的な制度的表現を広くとり入れていることが特徴といえる。

その意味で、「法の支配」という原理は、明文の規定こそ無いものの、日本国憲法の基本原理の一つであるととらえることができます。

※法の支配の内容としてはいろいろ挙げることができるが、特に
 1. 憲法が最高の法規であること
 2. 個人の人権が権力によって侵されないこと
 3. 権力の恣意的行使を抑制する裁判所の役割に対する尊重
 4. 法の内容・手続の公正を要求する適正手続 
などが内容と言えるのである。

※法治国家
一言でいえば,政治が法によって支配される国家のことをいい,ドイツの学界で、この原理のことを法治主義と呼んでいる。

※今日の法学においては,法治国家という語は二つの意味に用いられている。

第1に,形式的意味での法治国家とは,すべての国家権力の発動と限界を議会の定立した法律によって規範化し,独立の裁判所の権威によってその法律秩序を維持しようとする国家をいう。形式的意味の法治国家は,したがって法律国家と呼ばれることがある。 

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