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(白髪の翁と若い小僧)

たとえ話である。
一人の少年があるとき、魚でも釣ろうと思い、山を登り峠に差し掛かると、一つの一 本橋が渡されており、その橋を渡らないと、その場所に降りてゆくことができなかっ た。

何回目かに釣りに来た時、白髪の翁に偶然出会った。
翁に挨拶をして、そこを通りすぎようとすると、翁に呼び止められた。
「どこへ行くのじゃ」
翁はその白髪の中に見える顔に涙を浮かべていた。

少年はどうしたのかと思うと、翁の言葉を聞く。
「おまえは谷底へ向かい、わたしの落としてしまった物をとって来てくれるか」とい うのである。
少年は釣りに行くついでだし、時間がかかってもいいなら取りに行くと翁に言った。

翁は喜んで、
「では、頼むぞ」と言い残すと、その物が何であるかをいうこともなく消えてしまっ た。
その時に驚き、不思議に思い、何であの翁が自分の前に姿を見せたかがわからなかっ た。

少年はそのことを考えながら、翁に頼まれたものが何であるか想像しながらいつもの 谷に下りる道をひたすら歩いた。
されど、途中からその光景はいつもと違う、アザミの道であり、それを過ぎると茨の 道が待っていて。
少年はその行く手に大いに悩まされ、その道筋に辛くなり、途中で嫌になり投げ出そ うとした。
少年は思わず呟いた。
「なんでこんな大変な道を用意される」
そう叫ぶと、
心の中でこう聞こえた。
「嫌なら止めてもいいんだぞ」
しかし、少年はどうしてもそれが何であるかを知りたかった。
「僕はあきらめません、その翁のいわれた物が何であるかを知りたい」
少年は苦しみながらも、その翁のいわれた物を見つけるためにその地獄のような道を 歩み出した。

そして谷底のどん底に部分で、それを拾い上げ、来た道を帰ろうと思った。
すると、そのアザミだった道や、茨だった道は普通の今までの道に戻っており、
翁にそれを約束どおりに時間が遅れても届けることができた。

翁は言った。
「定刻の時間はないけれども、遅すぎるのもよくない」
「だが遅れても、その仕事をきちんと完成させることは大事である」
「また、今度会う時に、今度は本当の意味を見つけてこい」

それから少年は学問にはげんだ。
時が来て、再び翁のいるあの場所に行こうと思った。
彼は無心でその場所に向かった。
そして再び、その翁に会うとこう告げられた。
「今度はまた、深い谷底へ向かい、わたしの落とし物を拾い上げて来い」

かつて少年だったその男は、普通の人間の思考を超えていた。
普通の人間なら、何で二度も行かねばならぬと考える。
彼は実際にその場で迷うが、
翁のひとことで奮起を促される。
「悟る者は他にはいない」
その言葉を心に刻みながら、その谷底へと降りて行った。
今度はアザミや茨の道が一度経験したので、ある程度その試練にはついていけた。
されど、彼はその谷底へ降りた時に一つの過ちを犯してしまった。
心に不平不満が起きたのである。
「なんでわざわざ、こんなことを…」
そう思った瞬間だった。
今まであった道は様相がまるっきり変わり、断崖絶壁の岩盤の岩肌がむき出した困難 の登り道となってしまった。

少年だった男はしまったと思った。
思いもよらない苦境に落とされたのである。
まるっきり、登るところもない。
進む道も閉ざされ闇の中にいるような錯覚にとらわれた。
「この岩肌を一つ一つよじ登り、その翁に会うべく目指すのかと」
とりあえず、行くしかあるまい。
そう思うと彼は、その岩肌を手でつかみ一つ一つ登り始めた。

だが一つの仕掛けに気がついた。
人の見ることのできぬ場所に、その文字が丹念に刻まれていたのである。
彼はそれを読みながら、登り続ける。
その言葉を記憶しながら、
やがて休むような場所に行きついた。
そこには、木で造られた机が用意されており、それに竹で編まれた竹簡と筆と墨が用 意されていた。
とっさに考えた。
「今までの文字を解釈して、それを記してよじ登れということか」
少年だった男はその文字を丹念にその竹簡にまとめて、それを背負い、
またその岩肌を登り続ける。

またもや文字は刻まれており、その記された文字に恐るべき内容が刻まれている事実 を悟った。

今度はとっさに思った。
「これをすべて記して、翁のいる場所に向かえということか」
彼に示された文字には、知識を必要とする考える謎も含まれていた。
彼はその文字を大事に考えた。

そして一つ一つ、その文字を刻んでとうとうその翁のいる場所までたどり着いた。
翁は言った。
「おう、やっと来たか」
「苦労して得る者に尊い意味が理解できる」
「その奥義は常人では理解できまい」
「その場所までいかぬからである」
「落ちてもその意味を考え、動じずに耐えることを学び、その記された意味を理解す る者はそうはいない」

最後に翁は言った。
「それだけの苦労、水の泡にはできまい」
「苦労を得ねばわからぬ道もある」
「わたしが以前、出会ったときに涙を流した訳は、お前の人生をわたしが経験したの だと」