学習テキスト 第一章 商法の単位としての「商法」
1 商法とは(C)
(1)固有の商人
1、固有の商人とは、「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」(商法4条1項)。「自己の名をもって」とは、自分が権利・義務の主体となっているという意味である。
また、「業とする者」とは、営利の目的で継続的に同種の行為を反復して行う者をいう。
2、自己の名で基本的商行為に当たらない行為を業として行う者は固有の商人には当たらない。したがって、農業や漁業を営む者が利益を得る目的を有していたとしても商人とはならない。
しかし、 @店舗や類似施設で物品の販売をすることを業とする者、 A鉱業を営む者は、
※その営業の形態や規模などから、商人とみなされる(商法第4条第2項)。これらの者を擬制商人という。
3、商人は、個人であったり、法人であったりするが、法人の場合は、一般的に規模が大きく各方面への影響が強いため、会社法などにより細かく法的な規制を受ける。 4、これに対して個人商人は、商人としての活動とは別に自然人としての活動が存する以上、常に営業意思が存するとは限らない。ただ個人商人の商人としての活動は、その名称である商号を表してなされるものであるから、商号を伴う活動については、営業意思が存すると考えられる。 5、今一つ問題となるのは、営業開始前のいわゆる開業準備段階での活動である。会社は、法人として成立するのは設立登記の時点である(会49、579条)。それ以前は法人としての主体性は認められず、したがって営業意思の存在を論ずることもない。 6、これに対して、個人商人の場合には、開業準備段階においても営業意思をもった活動が行なわれることがある。このような活動によって、その個人はその段階で商人資格を認められ、その活動は附属的商行為となると解される。しかし、開業前のどのような行為がそれに当たるかについては争いがある。 【参考】 1、わが国においては民法と商法が並存し、一定の司法関係において、どちらを優先させるかが問題となる。
商法が採用している立法形式について、学説はおおむね批判的である。 2、企業法学の分野からは、企業の主体が商人とされ、かかる営業上の取引行為が商行為とされるべきであると主張されている。
わが国の商法は折衷主義を採用している。 3、それは、客観主義(商行為主義)により行為の客観的性質自体から特定の行為を商行為と規定する。(商法501条)とともに、主観主義(商人法主義)をも加味して、営業としてなされる場合にのみ商行為となる一定の行為(営業的商行為)を規定している(商法502条)。 (2)擬制商人
1、店舗その他これに類似する設備によって、商行為以外の方法で取得した物品の販売を業とする者、鉱業を営む者である(商4条2項)。 2、平成17年改正以前は以下の者以外に民事会社も擬制商人とされたが(旧商4条2項後段)、後述するように改正法により会社はすべて固有の商人となり、この規定は廃止された。
@店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者−原始取得したもの(農産物、林産物、水産物等)を店舗で販売するような場合、販売者は商行為を業としないことになるが、商人に擬制する。
A鉱業を営む者−鉱業も原始取得した物の販売等を業とするものであり、この販売等の行為は商行為にあたらないが、商人に擬制する。 【参考】 1、擬制商人がその営業のためにする行為(附属的商行為)は、前述のとおり商行為である(商503 条 1 項)。これに対し、擬制商人がその営業としてする行為(販売行為等)は、前述の通り商行為ではない。
2、しかし、商行為に関する規定を適用しなくてよいかは問題である。会社と同様(会 5 条参照)、営業としてする行為にも商行為に関する規定を適用すべきもの(旧商 523 条参照)とする見解が有力である。 2 商行為とは
(1)商行為の種類
(a)絶対的商行為・相対的商行為
※絶対的商行為 1、商行為のうち501条に列挙され、たとえそれを行ったのが一回限りであったとしても商法が適用される行為。 2、行為自体の性質によって当然に商行為とされるもの。したがって商人でない者が1回だけ行っても商行為とされる。立法論的には削除が主張されている。 ※相対的商行為 1、絶対的商行為に対し、行為をした者が企業としての性質をもっている場合にだけ商行為とされ、商法の適用を受ける行為。相対的商行為は、502条に列挙された営業的商行為と、503条に規定された附属的商行為に分類される。 2、相対的商行為とは、営利を目的として、商行為を継続・反復的に行うことを指し、営業的商行為とも云われています。 (b)基本的商行為・補助的商行為 ※基本的商行為 1、また絶対的商行為と営業的商行為は、それを営業として行う者を商人として扱うのであるから、商人概念の基礎となるものである。よって両者をあわせて基本的商行為という。 ※補助的商行為 1、これに対し、商人が行うからこそ商行為とされる(商人概念から商行為概念を導いている)のが附属的商行為である。よってこれを基本的商行為と対比させる意味で補助的商行為ともいう。 (c)一方的商行為・双方的商行為 1、また、商行為が当事者のどの範囲にまで適用されるのかに従って双方的商行為と一方的商行為に分類される。
双方的商行為は当事者の双方が自らにとって商行為となるような行為をしたときにのみ商行為として商法の適用を受ける場合である。
他方、一方的商行為は当事者のどちらかにとって商行為であれば当事者の双方に商法が適用される場合をいう。 (2)絶対的商行為
1、絶対的商行為は、たとえ商人ではない素人が偶然に一回限りで行ったとしても商法の適用を受ける。501条に列挙されており、限定列挙である。以下にこれを列挙する。なお、番号は501条の号数に対応している。
・投機購買・実行売却 ・投機売却・実行購買 ・取引所においてする取引 ・商業証券に関する行為
2、投機購買・実行売却とは、「安く買って、高く売る」ことである。
その対象は動産、不動産、および有価証券に限定されている。
投機売却・実行購買は、まず売却する契約を結んで、その売却予定価格よりも低い値段で物品を仕入れてくることである。
以上二つの行為が商行為とされるためには、行為を行う際に投機の意思がなければならない。
3、取引所においてする取引とは証券取引所などの施設で行われる取引のことであるが、金融商品取引法に詳しい規定があり、しかもこれらの取引は投機売買の典型として、あるいは取次行為として本号に規定するまでもなく商行為であるから、この規定は事実上無意味なものである。
4、商業証券に関する行為とは、証券上に署名することによって権利を発生、移転させる行為をいう。
この規定も手形法および小切手法の制定によって意義が乏しくなってはいるが、無意味となったわけではない(特に518条)。 @投機購買およびその実行行為(商501条1号)
1、利益を得て譲渡する意思をもって動産・不動産もしくは有価証券の有償取得を目的とする行為である。実行行為とは、そのように取得した動産・不動産もしくは有価証券を売却する行為である。
2、厳密にいえば、売買だけでなく、交換や消費貸借によって動産・不動産もしくは有価証券を取得する場合も投機購買にあたるが、先占・捕獲によって取得した場合は除外される(民法239条1項参照)。 【参考】○チェック 1、利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産もしくは有価証券の有償取得を目的とする行為(投機購買)および、それら取得したものの譲渡を目的とする行為(その実行行為、実行売却)である。すなわち、目的物を安価に購入し、高価に売却するときの取得行為と処分行為とを指す。
2、共に有償でなされる債権行為である。目的物の取得行為と処分行為から生じる差額の利得(利鞘稼ぎ)を目的とするものであって、経済上の固有の意味における「商」に他ならないと評価される。他から取得した物をそのまま売却するのではなく、これに加工を施したうえ譲渡する行為も含まれる(大判昭和4年(1929年)9月28日民集8巻769頁)。
それゆえ、多数の製造工業の行為は、ここに含まれることになる。 3、目的物の動産・不動産の意昧に関しては、民法の定義に従うも(民861)、特別法の明文の規定により不動産とみなされるもの、たとえば工場抵当法(明治38年(1905年)法律第54号)14条1項に基づき不動産とみなされる工場財団、同様に物とみなされるもの、たとえば鉄道抵当法(明治38年(1905年)法律第53号)2条3項に基づき1箇の物とみなされる鉄道財団なども目的物に含まれること、疑いがない。 A投機売却および実行行為(商501条2号) 1、投機売却とは、他人から取得する動産・不動産または有価証券の供給契約のことをいう。
その実行行為とは、契約の目的物を後に取得することであり、つまり有利に買い入れてその履行にあてる意思であらかじめ動産・不動産または有価証券を売却し、後にその目的物を買い入れる行為である。 【参考】○チェック 1、他人から取得する動産、または有価証券の供給契約(投機売却)および、その履行のためにする有償取得を目的とする行為(その実行行為、実行購買)である。
すなわち、まず高価に目的物の譲渡を約しておき、後に安価にこれを取得して、先行の譲渡契約を履行することを通じて、その差額の利得を目的とするものである。
2、投機購買およびその実行行為(商501@)と順序を逆にするものである。
投機売却および実行購買もまた、有償でなされる債権行為である。いわゆる先物取引が典型例である。先行する供給契約は、所有権の譲渡を目的とする有償契約であり、契約締結後の一定時期に目的物の給付がなされるものを指し、即時売買はこれに当たらない。 3、不動産が目的物に含まれないのは、これが管|生の強いものであるため、先物を売り込んでおいて後にこれを取得するということに適さないためである。目的物に製造・加工を施したうえで譲渡する契約でも差し支えない。
商法501条2号は、1号と異なり法文上の明定がないけれども、投機売却においても、行為者に営利意思が存在しなければならないこと、当然である。 B取引所においてする取引(商501条3号) 1、取引所においてする取引とは証券取引所などの施設で行われる取引のことであるが、金融商品取引法に詳しい規定があり、しかもこれらの取引は投機売買の典型として、あるいは取次行為として本号に規定するまでもなく商行為であるから、この規定は事実上無意味なものである。
商業証券に関する行為とは、証券上に署名することによって権利を発生、移転させる行為をいう。 【参考】○チェック 1、「取引所」という設備を通じてなされる取引をいう。取引所とは、代替性を有する、あるいは管注の希薄な、勤産、有価証券、債権、社員権などについて、多数の法的人格者が定期的に集合して、一定の方式に従って大量に取引を行う設備のことである。
2、そこで行われる取引は、極度に技術化され、かつ個々の取引は全く管匪のない定型的なものとなっており、その意昧で投機売買の最も純化された形態を示しているといえる(2o’。これが、商法がこの取引を絶対的商行為’とした由縁である。 3、わが国の取引所には、取引の対象により、商品取引所と金融商品取引所とがある。前者は、商品取引所法(昭和25年(1950年)法律第239号)による、後者は、金融商品取引法(昭和23年(1948年)法律第25号)による規整を受ける。
4、両取引所とも、そこで取引を許されるのは会員または取引参加者に限られ(商取971 ・ H、金商取n11)、これら会員または取引参加者たる資格を許されるのは、商品取引所にあっては、商品市場における上場商品構成物品・上場商品指数対象物品の売買等を業として行っている者、商品取引員などに限られ(商取821)、金融商品取引所にあっては、金融商品取引業者、取引所取引許可業者、登録金融機関などに限られる(金商取91、113 1 )。
5、これら以外の者は、会員または取引参加者に委託して、会員または取引参加者の名において委託者の計算において取引ができるにすぎない。非商人の1回限りの行為というものは、商法501条3号に限っては、ありえない。 C手形その他の商業証券に関する行為(商501条4号)
1、「手形その他の商業証券に関する行為」といっています。
商業証券とは、手形・小切手のほか、株券・社債権・貨物引換証(かぶつひきかえしょう)・倉庫証券・船荷証券などの有価証券があげられます。
「商業証券に関する行為」とは、証券上になされる振出、裏書、引受け、保障などの行為をいう。 【参考】○チェック 1、手形その他の商業証券上になされる証券行為としての法律行為をいう。
商法501条4号にいう「手形」とは、為替手形、約束手形および小切手のことである。
2、手形法80条、小切手法64条の規定に基づき、両法の施行にともなって削除される前の商法手形朧中の商法434条が「本法二於テ手形トハ為替手形、約束手形及ヒ小切手ヲ謂フ」との定義規定を置いていたからである。
3、「その他の商業証券」に関しては、今日まで多くの商法研究者は、これを広く有価証券の意昧に解すべきであると説き、金銭その他の物または有価証券の給付を目的とする有価証券(商518、519参照)に限る必要すらないと解している。
4、近時、この通説とも言える解釈に疑問を呈し、一石を投じたのが田擾光政である。
田漫は、商業証券という用語をもって立法者が何を表現しようとしたのか、その沿革を辿ることを通じて、立法関係者が、この用語を、有価証券の中でも手形を典型とする信用証券、すなわち一定金額の支払いを目的とする証券に限定する趣旨であったと解するのが、立法趣旨に沿う解釈ということができると結論づけている。 (3)営業的商行為
1、営業的商行為は、それを営業として行った場合にのみ商行為として扱われ、商法が適用される。502条に列挙されており、限定列挙であると考えられている。
つまり、これ以外に解釈によって商行為を認めることはできないとされている。 【参考】○チェック 1、営業(お金を稼ぐ行為のこと)としてなされた場合に限り商行為と考えられるものを営業的商行為という。
例えば、電気を無料で供給すれば商行為ではないが、お金をとって提供すれば商行為となる。 2、営業的商行為とは、それが営業としてなされるときに、すなわち営利の目的をもってその行為が集団的・反覆的・継続的に行われるときに、初めて商行為になるものをいう。
3、営利の目的とは、少なくとも全体として収支相償うことを意図することをいう。
商法502条各号がこれを列挙している。同条各号に掲げられた行為は、限定的列挙である。商法が営業的商行為を列挙したのは、本来商法の適用関係を明確にしようとしたものであり、仮に例示的列挙と解せば、商法を適用するうえでの限界がきわめて不明確となり、かえって不当な結果を招くことになることがその理由である。
4、経済の発展によって生じる新しい企業取引類型について対応しきれないという欠点はあるが、やむを得まい。限定的列挙であるとはいえ、列挙された各号の解釈を弾力的に解することまでをも禁じる必要はない。 @投機貸借および実行行為(商502条1号)
1、他者に貸し付ける意思で動産または不動産を取得ないし貸借し、これを他者に貸し付ける行為をいう。レンタカー業、レンタルCD業、不動産賃貸業などがこれに当たる。 A他人のためにする製造または加工に関する行為(商502条2号)
1、他人から材料をもらい、あるいは他人の資金で材料を買い入れて加工や製造を行う契約をいう。クリーニング業もこれに当たる。 B電気またはガスの供給に関する行為(商502条3号) 1、電気またはガスを継続して供給することを引き受ける行為である。 C運送に関する行為(商502条4号) 1、運送をなすことを引き受ける行為のことである。運送契約の締結が商行為となる。陸上運送・海上運送・空中運送に分類される。 D作業または労務の請負(商502条5号) 1、作業の請負とは、不動産や船舶の工事を請け負うことをいう。労務の請負とは労働者の請負をいう。
現在、労働者請負事業は、労働組合が主務大臣の許可を得て無料で行なうほかは禁止されている(職安44条、45条、船員職安50条、51条)。 E出版・印刷または撮影に関する行為(商502条6号) 1、出版に関する行為とは、文書や図面などの印刷を販売配布することを引き受けることをいう。
出版業者、新聞業社の行為がこれにあたる。印刷に関する行為とは、文書や図面などを、機械力によって複製することを引き受けることであり、印刷業者の行為がこれにあたる。 2、撮影に関する行為とは、写真の撮影を引き受けることであり、写真館の行為がこれにあたる。
F客の来場を目的とする場屋における取引(商502条7号) 1、客の来場を目的とする場屋における取引とは、公衆の来場に適する設備を設けて、これを利用させることを目的とした行為である。浴場、飲食店、映画館、ゲームセンターなど。 G両替その他の銀行取引(商502条8号) 1、銀行取引とは、銀行法にいう銀行業務とはまた別の概念で、金銭などを預かる一方でそれを貸し付けるという受信行為と与信行為を一体として行っていること、すなわち転換媒介行為をいう。
よっていわゆるサラ金などの貸金業は受信行為がないために商行為を業とするとはいえず、したがって商人ではないとされてきた。 H保険(商502条9号) 1、保険者が保険契約者から対価を得て保険を引き受けることをいい、相互会社による保険は含まない。 I寄託の引受け(商502条10条) 1、寄託の引受けとは、他人のために物を保管することを引き受ける契約をいう。倉庫業者などの行為がこれにあたる。 J仲立ちまたは取次ぎに関する行為(商502条11号) 1、仲立ちに関する行為とは、他人間の法律行為の媒介を引き受ける行為である。
商行為の媒介を行なう仲立人(商543条、一定の商人のためにその営業の部類に属する取引の媒介引き受けることを営業とする媒介代理商(商27)の行為がそれにあたる。 2、それ以外にも、結婚の媒介・不動産売買の周旋のように、商行為以外の法律行為の媒介を行う民事仲立も、それが営業として行なわれる限りは商行為となる。 3、取次に関する行為とは、他人の計算においてであるが、自己の名をもって法律行為をなすことを引き受ける行為をいう。
物品の販売または買い入れをなすことを取次ぎの目的とする問屋営業(商551)、物品運送の取り次ぎをなす運送取扱人(商559条)、販売または買い入れ以外の法律行為の取次ぎの目的としている準問屋営業(商558条)のする行為がこれにあたる。 K商取引の代行の引受け(商502条12号) 1、商行為の代理の引受けとは、委託者のために商行為となる行為の代理を引き受ける行為である。締約代理商(商27)のする行為がこれにあたる。 L信託法による信託の引受け(商502条13号) 1、従来は、無尽業法による無尽は営業行為とされていた。
しかし、法改正により、無尽業は株式会社が営むことになったので、無尽は、無尽会社の事業目的である行為として商行為性を有することとなる。 ※無尽会社 1、一定の口数と給付金額とを定め、定期的に掛け金を払い込ませて、一口ごとに抽せん、入札その他これに準ずる方法により掛金者に対して金銭以外の財産の給付をすること(物品無尽)を業として行う株式会社をいう。
無尽業法(昭和6年法律第42号)を参照。 (4)附属的商行為
1、商人がその営業のためにする行為をいいます。営業を補助する行為で、補助的商行為とも呼ばれます。
2、「営業のためにする行為」とは、財産法上の行為であって直接営業に役立つ行為のみならず、営業の維持便宜を図るための行為を含みます。有償無償を問いません。
3、契約のような法律行為に限らず、事務管理も含みます。基本的商行為を営業として行うための開業準備行為は、付属的商行為と解されています。
商人の行為はすべて営業のためにするものと推定されます。 (5)会社の事業と商行為
1、会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とされている(会社法第5条)。
会社は、自己の名をもって商行為をすることを業とする者として、商法上の商人に該当する(商法第4条第1項)。 2、商人の行為は、その事業のためにするものと推定される(商法第503条第2項)。
したがって、会社の行為は商行為と推定され、これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと、すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である、という論理である。 3、ところで、会社の営利性とは、「会社が対外的経済活動で利益を得て、得た利益を構成員に分配することを目的とする」ことをいう(江頭憲治郎「株式会社法」19頁)。 4、しかし、 「会社は、その事業のために必要あるいは有益な行為であれば、それ自体としては営利性を有せず、またその事業に直接つながらない行為でもなしうる。すなわち会社の営利性とその行う行為自体の非営利性とは必ずしも矛盾しないから、寄附のような非営利行為もなしうる」 (弥永真生「リーガルマインド会社法」7頁)。 5、このように、会社が「その事業としてする行為」とは、対外的経済活動たる行為であって、寄附のような非営利行為は、会社の行為として、一応は商行為と推定されるものの、会社の事業のために必要あるいは有益な行為、すなわち、「その事業のためにする行為」と推定される行為である(これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと、すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証がなされれば、推定が覆されることがあり得る。)。 6、そして、「株式会社がその事業としてする行為(定款所定の行為(会社法第27条第1号))及びその事業のためにする行為は、商行為とされている」(江頭・31頁)とあるとおり、定款に掲げる「目的」は、「その事業としてする行為」であるべきであり、「その事業のためにする行為」はその範疇に入らないと考えるのが相当である。 7、したがって、それ自体としては営利性を有せず、またその事業に直接つながらない行為、いわゆる非営利行為を「目的」として定款に掲げることは認められないと考えるべきである。 3 小商人
1、商人のうち、法務省令で定めるその営業のために使用する財産の価額が法務省令で定める金額50万円を超えないものを小商人といい、
未成年者登記(5条)、後見人登記(6条)、商業登記(第3章)、商号登記(11条2項)、商号譲渡の登記(15条2項)、営業譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨の登記(17条2項前段)、商業帳簿(19条)及び支配人の登記(22条)の規定は、小商人については適用されない(7条)。 4 商人資格の収得時期
1、いつから商人として認められるのかということは、いつから付属的商行為に対して商法の適用があるのかを決定します。そこで、商人資格の取得時期はいつなのかということが問題になるわけです。
2、商人資格の取得時期を考えるに当たっては、商人であるということを主張するものの利益と取引の相手方の利益の双方の利益の調和を図る必要性があります。そこで、次のように段階的に決するのが妥当でしょう。 @営業意思表白説
1、表白行為説は、単に営業の準備行為を行っているというだけでは不十分であり、営業の意思を外部に発表しなければならないとするもので、たとえば、店舗の開設や開店広告などが外部への意思の発表にあたると解されています。 A営業意思主観的実現説
1、営業意思主観的実現説は、営業意思が準備行為によって主観的に実現されれば、表白行為がなくても商人資格が取得されると考えます。
最高裁昭和33年判決(最判昭和33年6月19日民集12巻10号1575頁)もこのような立場に立っているものと読むこともできます。当事者の利害にかかわる商人資格時期の判断を、一方当事者の主観に委ねるのは公平を欠くように思われるとする。 B営業意思客観的認識可能説 1、営業意思客観的認識可能説は、営業意思が客観的に認識可能であることを要求します。
これだと、両当事者にとって公平ですので、学説では多数説となっています。
最高裁昭和47年判決(最判昭和47年2月24日民集26巻1号172頁)は昭和33年判決を踏襲しつつも、「準備行為は、相手方はもとよりそれ以外の者にも客観的に開業準備行為とみとめられうるものであることを要すると解すべきところ」と述べていることから、この説に近いものと思われるとする。 C段階説
1、段階説もあります。
これは、まず第一段階として、行為者の営業意思が準備行為によって主観的に実現された場合、この段階で相手方は、営業のために行ったと立証できれば、その行為者の商人性を主張できるが、行為者の方からはそれを主張できないとし、第二段階として、行為者の営業意思が特定の相手方に認識されたかまたは認識されうべき状態となったときには、相手方からのみならず、行為者からも商人性を主張でき、第三段階として、行為者の商人性が一般的に認識されるようになったときは、その行為者の行為について附属的商行為の推定が生じるとする見解です。
2、この説は、条文規定にその根拠が見当たらないのがやや難点ですが、当事者間の対抗問題あるいは立証責任の分配問題としてきめ細かい利害調整が行われている点ですぐれたものと評価できます。 5 未成年者の営業
1、未成年者の法定代理人は未成年者に対して一種あるいは数種の営業を許可することができ、この場合、許可された未成年者はその営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する(6条第1項)。
2、したがって、未成年者が許可された営業について行った法律行為は制限行為能力者であることを理由としては取り消すことができなくなる。
3、法定代理人は未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは営業の許可を取消・制限することができる(6条第2項)。
この取消し・制限は将来に向かって許可の全部あるいは一部の効力を失わせる撤回であるから、その営業が許可されていた間に未成年者がなした営業行為を取り消すことはできない。
4、未成年者の営業の許可及びその取消し・制限につき、営業の内容が商業であるときは商法上・会社法上・商業登記法上の登記を要する(商法第5条など)。
営業の内容が商業でない場合には、許可や取消し・制限の公示の方法がないので善意の第三者にも対抗しうるものと解されている。 |