学習テキスト

7 名板貸

(1)名板貸しの責任

1、自己(名板貸人)の氏・氏名・商号を使用して営業をなすことを他人(名板借人)に許諾した者は、自己(名板貸人)を営業主であると誤認してその他人(名板借人)と取引した者に対し、その取引から生ずる債務につき、その他人(名板借人)と連帯して弁済の責を負わなければならない。

⇒この相手方には、善意・無重過失が必要である。

※名板貸人の責任の内容

1、名板貸人は名板借人の取引によって生じた債務および取引に関連して生じた債務につき弁済の責任がある。


(2)責任が認められる要件

(a)名義使用の許諾

1、商法23条の「自己の氏,氏名又は商号」は、通称・略称・芸名も含む。また、これらの名義をそのまま使用することだけでなく、これに名板貸人の営業の一部であることを示す名称、たとえば、支店とか出張所とかを付加して使用することを許諾することも含むとする。

2、「許諾」には、「明示の許諾」だけでなく、「黙示の許諾」を含む。

※つまり、まったく無断で使用された場合は名板貸人は責任を負わないが、使用していることを知って放置していた場合は「黙示の許諾」とみなされるので、責任を負うことになる。

ただ、放置していただけで直ちに黙示の許諾があったと解すべきでなく、放置しておくことが社会通念上妥当でないと考えられる状況のもとにおける放置であってはじめて黙示の許諾と認められることになる

 

3、名義使用の許諾は、自己の名義を使用して他人が「営業を為すこと」についてなされていなければならない。

使用を許諾された名義が、現実には営業自体のために使用されることなく、手形行為のみに使用された場合にも、名板貸人は23条により責任を負う。


【参考条文】

商法23条(支配人の競業の禁止)

1 支配人は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。

 一 自ら営業を行うこと。

 二 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。

 三 他の商人又は会社若しくは外国会社の使用人となること。

 四 会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

 

2 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。


※仮にも営業をすることについて名義使用の許諾があれば、債務決済の手段として、名板貸人の名義で手形行為が行われることは当然に予想されることだからということになる。


【判例】

1、商号使用の許諾を受けた者の営業が、許諾した者と同種の営業であることを要するか。

(最判昭和43.6.13 民集22巻6号1171頁)

商号は、法律上は特定の営業につき特定の商人を表す名称であり、社会的には当該営業の同一性を表示し、その信用の標的となる機能を営むという事実に基づいて、商法23条は、自己の商号を使用して営業をなすことを他人に許諾した者は、自己を営業主と誤認して取引した者に対し同条所定の責任を負うべきものとしている。

 

※したがって、現に一定の商号をもって営業を営んでいるかまたは従来一定の称号を持って営んでいた者が、その商号を使用して営業を営むことを他人に許諾した場合に責任を負うのは、特段の事情のない限り、名板借人の営業が名板貸人の営業と同種であること を要するところ、Aが、「現金屋」の看板を掲げて営んでいた電気器具販売業を廃業するのに際し、Aの使用人であったBが同じ店舗で食料品販売業を営業していることを知り、BがA名義のゴム印および印鑑を用いて売買取引および銀行取引をしていた。

BをAと誤認して取引をした者に対し、Aにおいて商法第23条の責任を負うべき特段の事情があると解するのが相当であるとし、Aに名義貸人の責任を認めた。

 結論:

 特段の事情のない限り、同種の営業であることを要する。

→つまり、相手方が営業主体を誤認するためには、原則として同種の営業であることが必要であるが、相手方が営業主体を誤認するような特段の事情がある場合は別である。


(b)相手方の信頼

1、相手方が名板貸人を営業主ないし取引主体と誤認して名板借人と取引したこと。

⇒商法23条は、過失について特に言及していない以上、たとえ過失があっても23条の適用があると考えるべき。

ただ、重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきものであるから、誤認して取引をした相手方に重大な過失がなかった場合には、名板貸人は責任を免れる、というのが判例の立場である。

→つまり、相手方が善意・無重過失であることが要件となる。


(3)名板貸人の責任の範囲

※名板貸人は名板貸人の営業活動上生じた不法行為について23条により責任を負うか。 

23条は「取引ニ因リテ生ジタル債務」と規定して、外観を信頼して取引した第三者の保護を図る取引法的規定であるから、不法行為には適用されないのが一般的である。

しかし、純然たる事実行為としての不法行為とは異なり、取引的不法行為の場合は、外観を信頼したために損害が生じたという因果関係が認められ、このような被害者の信頼は同条で保護すべきである。そして、取引的不法行為は取引的行為の外形を持ち、それにより負担することになった損害賠償も「其ン取引ニ因リテ生ジタル債務」に含まれると解する。


※したがって、名板貸人は名板借人の営業活動上生じた不法行為のうち、事実的不法行為については商法23条による責任は負わないが、取引的不法行為については23条によって責任を負うと考える。

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