学習テキスト

1「商号」とは

※商号とは自分が商売を行う際に用いる名称をいい、営業上、自己と他人を区別するためのものであり、「商人がその営業活動において自己を表示する名称」のことを意味する。

⇒商号は商法及び不正競争防止法により保護されており、同一の商号は同一市町村内では使用できないことになっている。

 

商号は法務局で登記することになるが、個人商店などについては必ずしも登記の必要はないとしている。


商号は、商法や不正競争防止法によって保護され、商人は商号を他人に妨げられずに利用する権利(商号使用権)と他人が自己の商号を不正使用した場合に差止め及び損害賠償を請求する権利(商号専用権)を有する。


商号は、一つの営業につき一つしか持つことができないことになっている。

⇒もし同一の営業のために複数の商号を使うことを認めると、一般公衆の誤解を招くおそれが十分にあるからである(商標は複数使用することが認められている)。

※会社の場合、その営業は法律上常に一つの営業とみなされるので、商号は一つに限られます。


また、会社の場合は会社の種類に応じて、商号の中に、合名会社、合資会社、株式会社、有限会社の文字を入れなければなりません(商法18条2項、有限会社法3条2項)。

⇒加えて、会社については、商号を登記しなければならない関係上、外国文字の商号の使用は認められていません。


したがって、外資系の企業でも商号はカタカナ使用となっている。

 

なお、商業登記規則等の一部を改正する省令(平成14年法務省令第47号)及び商業登記規則51条の2第1項の規定に基づき商号の登記に用いることができる符号に関する件(平成14年法務省告示第315号)が平成14年11月1日に施行されて、会社の商号(法人の名称)の登記にローマ字等符号を用いることが使用可能になっている。


2 商号の選定

※商人は、その氏、氏名その他の名称をもって商号とすることができる(11条1項)、また商人は、自己の営業の実態にかかわらず、自由に商号を選定することができる。


※商号選定自由の制限

1)制限の必要性

※商号は商人の信用の対象となる機能を有するため、一般公衆は営業の実態と商号との一致につき多大な利害関係を有することになる。

⇒そこで、商号選定を自由とすることによる商人側の利益と、一般公衆の利益の調和を図るため、商号選定の事由につき一定の制限を課す必要が生じることになる。


2)具体的な制限の内容

※会社の商号に関する制限

※会社はその種類に応じて、商号中に株式会社、合名会社、合資会社または合同会社の文字を使用しなければならず、他方、会社でない者はその商号中に会社であると誤認させるおそれのある文字を使用することはできない(会社法6条2項、7条)とされている。


第6条【商号】

@ 会社は、その名称を商号とする。
A 会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない。
B 会社は、その商号中に、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。


第7条【会社と誤認させる名称等の使用の禁止】

会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。


イ)不正の目的による商号使用の禁止

※何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用することはできない(12条1項)。

⇒これに違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる(12条2項)。


第12条【他の商人と誤認させる名称等の使用の禁止】

@ 何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。

A 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

 

3 商号単一の原則

※商号は一個の営業につき一つでなければならない。

⇒個人商人は複数の営業をすることができるから、数個の商業をもち得るが、会社の営業は法律上常に一個の営業とみられるから、一個の商号しか有し得ない。

 

【判例】

※個人商人が数種の独立した営業をし、または数個の営業所を有する場合において、その各営業または営業所につき、別異の商号を有することは妨げないが、同一営業について同一営業所で数個の商号を有することは許されないとした。

※その根拠は、商号は社会的・経済的に見れば営業の同一性を表示するという機能を有しているのであって、一般公衆は称号によって営業の同一性を判断するのであるから、1個の営業で数個の商号を使用することができるとすると、一般公衆をして営業の同一性につき誤認混同に導くおそれがあるとともに、他人の商号選定の自由を制限することとなるところにあるとされている。


※商号単一の原則の意義については、商人が同一営業所における単一の営業につき1個の商号しか使用できないとする原則であると解して、営業所を異にすれば別異の商号を有することも妨げないとする見解もある。

⇒しかしながら、一般公衆は異なった商号から異なった観念を持つのが通常であるので、1人の商人が複数の営業所で同一の営業をしている場合において、各営業所ごとに異なった商号の使用を許すと、当該商号使用者の権利濫用の危険が高まる反面、他の商号使用者の商号選定の自由を害するおそれがあり、その上、一般公衆をして営業の同一性の認識を誤らせるおそれもあるからとしている。


4 登録商標と未登記商号

※商人が自然人である場合には商号の登記は任意であるが(商法11条2項)、会社である場合には必ず商号の登記を要する(会社法911条3項2号・会社法912条2号・会社法913条2号・会社法914条2号)。

⇒なお、他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所の所在場所が他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、登記することができない(商業登記法第27条・同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)。


5 商号の不正使用の排除

※商人が商号上に有する様々な権利を総称して商号権といい、商号権には商号使用権と商号専用権がある。

⇒営業上自己を表示するために用いる名称である商号を独占的に使用できる権利。


※商号は個人事業主の屋号、会社法人の登記名にそれぞれあたるもので、事業主の信用を保護するとともに、商号を信頼して取引をする消費者の保護にもつながる。

⇒他人の妨害を受けることなく自由に商号を利用できる商号使用権と、他人が不正な競争を目的として同一または類似の商号を使用することを排除できる商号専用権を含んでいる。

※なお商標権とは指定の商品やサービスに対する名称を独占的に使用できる権利であり、商号権とは区別される。


6 商号の廃止・変更

※商号の廃止・変更には登記を要する(商法10条、会社法909条)。銀行など特定の業種の商号については商号の変更に認可を必要とする(銀行法6条3項など)。

⇒なお、現に使用されていないにもかかわらず商号の登記をした者が廃止等の登記をしていない場合には、当該商号の登記に係る営業所の所在場所において同一の商号を使用しようとする者は、登記所に対し、当該商号の登記の抹消を申請することができる(商業登記法第33条)。


会社の名前を商号といい、会社の名前を変更する場合には商号変更の登記が必要となる。 しかし、現在使用している会社の商号を、どんな商号にも変更できるわけではなく、会社を設立する場合と同じように、同一住所、同一商号の会社と同一の商号へは変更はできないのが原則である。

⇒平成18年5月の会社法施行以降の類似商号規制廃止後も、同じ市区町村内で同業者(同じような仕事内容の会社)が同一または類似(似ている)の商号がある場合には、後々その会社から損害賠償を受ける可能性がないとはいえないからである。

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