学習テキスト

2 訴訟の主体
2−1 裁判所
2−1−1 裁判所の意義と構成

○ 裁判所の種類を挙げることができ、民事訴訟に関するそれぞれの役割について条文を参照して説明することができる。 国法上の裁判所(官署としての裁判所)と訴訟法上の裁判所(裁判機関としての裁判所)の概念の違いを理解している。

(一)裁判所の意義
 T)
 ・裁判所とは、司法権(裁判権ともいう)を行使する国家機関をいう。

(二)裁判所の構成
 T)裁判所の種類
・最高裁判所のほか、その下級裁判所として、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、及び簡易裁判所が設けられている
(憲法76条、裁判所法1条・2条)

※裁判所は、司法権が帰属する国家機関である(憲法76条)。
⇒司法権の内容は、「法律上の争訟を裁判」する権限であり(裁判所法3条)、この権限は裁判権と呼ばれている。

※裁判所は、民事訴訟法との関係では、民事訴訟事件について裁判権を行使する国家機関である。

・「裁判所」の語はさまざまな意味で使われるが、主要なものは次の2つとされている。

@裁判官その他の裁判所職員が配置された官署としての裁判所
裁判所法においては、「裁判所」の語はこの意味で用いられている。民訴法においても、4条や100条、383条における裁判所は、この意味である。

A事件の審理・裁判を行う一人または数人の裁判官によって構成される裁判機関としての裁判所
・例えば、民訴法87条や243条における裁判所は、この意味である(民事再生法246条1項にも適例がある)。
⇒次に述べる「単独制の裁判所」「合議制の裁判所」もこの意味である。

裁判機関としての裁判所の構成
・裁判機関としての裁判所は、その構成員の数により、次の2つに分類される。

1 単独制の裁判所  

一人の裁判官から構成されている裁判機関


2 合議制の裁判所  

複数の裁判官から構成されている裁判機関

裁判長
・合議制の場合には数人の裁判官の内の一人が裁判長となり、裁判所を代表して発言し、訴訟を指揮する。しかし、裁判内容の決定は全員の合議により、見解の一致が得られない場合には多数決により裁判内容が決定される(裁判所法77条)。
⇒ただし、訴状の補正命令や却下命令のように(137条)、裁判長が合議体から独立して裁判する場合もある。


○ 受命裁判官及び受託裁判官の概念及びその主要な職務を理解している。

受命裁判官
・合議制の裁判所では、証拠調べや争点整理を含めて各種の職務は全員がそろって行うのが原則である。

しかし、現実には裁判官も多忙であり、処理すべき事項によっては、一部の裁判官に行わせて効率を高める必要が生ずる。裁判所外での証拠調べがその代表例である。

そこで、裁判事務の一部について、合議体を構成する裁判官に職務を執行させることが認められている。その裁判官を受命裁判官という。
⇒受命裁判官は、多くの場合は一人である。異論はあるが、複数であってもよく、複数の受命裁判官に共同で職務を行わせることも許される。

・受命裁判官に職務を行わせるか否かは重要なことであるので、合議体で決定する。
⇒その決定がなされた後で、どの裁判官にさせるかは合議体で決定するほどの問題ではなく、裁判長が受命裁判官を指名する(規則31条1項。3名の裁判官からなる合議体で、2人の陪席裁判官が裁判所外での証拠調べの仕事を互いに遠慮し合う場面を想像すれば、裁判長が指名することの合理性が理解しやすい)。

・受命裁判官に処理させることができる事項は、 法及び規則で規定されている。その詳細ぶりから、受命裁判官にさせることができる事項が制限的に規定されていることがよくわかる:

審尋  
88条(受命裁判官による審尋)

和解等  
89条(和解の試み)・264条(和解条項案の書面による受諾)・265条(裁判所等が定める和解条項)、規則32条(和解のために当事者本人又は法定代理人に出頭を命ずる処置)。266条(請求の放棄又は認諾)


進行協議  
規則98条(受命裁判官による進行協議期日)

争点整理  
171条(受命裁判官による弁論準備手続)・176条(書面による準備手続の方法等)、規則91条(書面による準備手続における音声の送受信による通話の方法による協議)

証拠調べ  
185条(裁判所外における証拠調べ)。この条では「合  議体の構成員」の語が用いられている。この規定から、「受命裁判官」の定義(合議体である裁判所から一定の職務の執行を命じられた合議体構成員)を導き出すことができる[14]。証拠調べに関しては、他に多数の規定がある:195条(受命裁判官等による証人尋問)・206条(証人尋問を行う受命裁判官等の権限)・213条(鑑定人の指定)・215条の4(鑑定人に意見を述べさせる場合の受命裁判官等の権限)・233条(検証の際の鑑定)、239条(証拠保全手続における受命裁判官による証拠調べ)、268条(大規模訴訟に係る事件における受命裁判官による証人等の尋問)


その他  
規則35条(受命裁判官等の期日指定)、規則38条(裁判長等が定めた期間の伸縮)、規則45条(受命裁判官等の外国における送達の権限)

受託裁判官
・裁判所は、裁判事務について、互に必要な補助をする(裁判所法79条)。
⇒例えば、受訴裁判所から離れた地で証拠調べをする必要がある場合に、最寄りの裁判所に証拠調べを嘱託する(依頼する)ことができる(185条1項)。

※嘱託を受けた裁判所は、所属裁判官の中の適当な者に嘱託された事項を行わせる。
⇒その裁判官(他の裁判所からの嘱託により職務を行う裁判官)を受託裁判官という(185条2項参照)。

※どの裁判所に嘱託することができるかは、法律で規定されている場合がある。

証拠調べについては、他の地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託する。

・証拠調べは、受命裁判官にも受託裁判官にもさせることができる。しかし、事柄の性質により、受命裁判官にさせることはできるが受託裁判官にさせることはできない事項もある。
⇒例えば、88条の審尋がそうである。


○ 裁判所書記官の主要な役割を理解している。
 
裁判所書記官
1職 務
・各裁判所に裁判所書記官が置かれている。
⇒裁判所書記官は、(α) 裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管(裁判所法60条2項)、(β)その他、他の法律において定める事務(民訴71条・382条など)を掌る(裁判所法60条2項)。

※裁判所書記官は、このほかに、(γ)裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行なう法令及び判例の調査その他必要な事項の調査を補助する(裁判所法60条3項)。

当事者との折衝
・民訴法・民訴規則で裁判所書記官の事務とされている事項は多数にのぼるが、ここでは、当事者との折衝事項を見るとすれば…。

※実務では、裁判所書記官は当事者との関係で裁判所の対外的窓口の機能を果たすと位置付けられている(例えば[最高裁*1997b]62頁)。

・次の事項は裁判所または裁判長の職務であるが、裁判長の命を受けて書記官が当事者と折衝することが認められている
(ただし、独断でするのではなく、自己の判断を裁判長等に述べつつも、その指示を受けてする)。

・訴状の補正の促し(規則56条)
・最初の口頭弁論期日前における参考事項の聴取(規則61条2項)
・期日外釈明(規則63条)

・裁判所書記官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う(裁判所法60条4項)。
⇒しかし、裁判所書記官は、手続経過の真実を明らかにする役割を担っており、口述の書取りその他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる(裁判所法60条5項)。