学習テキスト

1−4 民事訴訟に関する法規

○ 民事訴訟に係る法源の種類を挙げることができるか。

・法源という点から見ると、これらの規範は、その大部分が国内法であり、あるいは、たとえばドイツにおける外国判決の承認を規律するドイツ民事訴訟法三二八条などような、よく使われる表現によれば、独自に解釈する法(autonomes Recht)である。

※しかし、ますます大きな意味を持ちつつあるもう一つの規範は、二国間以上の条約に基づく国際的な起源を有する規範である。


○ 民事訴訟法の歴史及び現行民事訴訟法の制定の意義について、理解しているか。

・旧民事訴訟法は、日本初の本格的な民事訴訟法として1890年(明治23年)に制定された。
⇒ドイツの法学者ヘルマン・テッヒョーの起草によるものである。

1926年(大正15年)にオーストリア民事訴訟法典の影響を受けた大きな改正(大正15年法律第61号)を経て、その後ほぼ70年の間、部分的な改正のみが行われ用いられ続けた。

・当初の旧民事訴訟法には、民事執行手続や民事保全手続に関する規定も含まれていたが、執行手続については1979年(昭和54年)に競売法と統合して民事執行法が、保全手続については1989年(平成元年)に民事保全法が、それぞれ別の法律として独立した。

・現行法が施行されたことに伴い、旧民事訴訟法は「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」と題名を変えて残った。その後仲裁法が制定されたことに伴い、仲裁手続部分を削除し、公示催告手続のみを規定する「公示催告手続ニ関スル法律」と再度題名改正し存続した。さらに、公示催告手続につき改良した手続を旧非訟事件手続法に加える改正がされ、平成17年4月1日に廃止されている。

※旧来の民事訴訟法に対して、適正かつ迅速な民事訴訟制度の構築を図ることを目的に新法として制定された。

1998年(平成10年)1月1日施行。


○ 民事訴訟法規の種類(強行規定・任意規定、効力規定・訓示規定)及びその意義について具体例を挙げて説明することができる。

(三)法規の種類
 T)はじめに
・民事訴訟法の規定は、その順守の程度に応じ、次のような区別がある点で、民法の強行規定・任意規定に似ている。

U)効力規定と訓示規定
・効力規定とは、これに違反した場合、その訴訟行為や手続の効力に影響を及ぼす規定である。

・訓示規定は、これに違反しても訴訟法上の効力に影響のない規定であり、主として裁判所の職務行為に関する規定がこれに属する。

 V)強行規定と任意規定
 1)強行規定
 ・効力規定の中の分類である。
・強行規定は訴訟制度の基礎の確保に関する規定や裁判所・当事者の任意の意思により、その効力を左右し得ない規定である。
 ・強行規定に違反した行為や手続は、常に無効となる。

 2)任意規定
 ・任意規定には、二つある。
・その一つは、
@訴訟における当事者の合意がある場合はその合意が優先し、合意のないときのみ適用される規定をいう。
・もう一つは、
A裁判所または当事者の訴訟行為が任意規定に違反した場合であっても、それによって不利益を受ける当事者が、これを甘受して異議を述べないときは、その瑕疵は治癒され、その違反が不問に付される規定である。
(これを当事者の責問権の放棄及び喪失という)

・民事訴訟法の各規定は、どれにあたるかは、具体的に検討されるべきであり、本書の解説の中で明らかにされる。


○ 民事訴訟法規の種別を踏まえ、いわゆる責問権の放棄・喪失の制度について、具体例を挙げて説明することができる。

2 責問権とは
(1)意義
・裁判所または相手方の訴訟行為に訴訟手続に関する規定違反がある場合に、異議を述べて、その無効を主張しうる当事者の権能である。

(2)責問権の放棄・喪失
・当事者が訴訟手続に関する規定の違反を知り、または知ることができた場合において、遅滞なく異議を述べないときは、これを述べる権利を失う(法90条本文)
⇒ただし、放棄することができないものを除く(同条但書)

※放棄できる場合:当事者の訴訟追行上の利益を保護することを主たる目的とする訴訟法規(任意規定)違反の場合
(例)訴状の受理能力のない者に訴状を送達した場合/訴えの変更の方式に違反して書面の提出や被告への送達がなされなかった場合/口頭弁論期日や証拠調べ期日の呼出しが違法な郵便送達によった場合など