学習テキスト

第1編 民法総論・民法総則
序章 民法総論
第1節 私法の一般原則


◆私法とはどのような法分野を意味するかについて、基本的な考え方を説明することができる。

※私人間の関係を規律する法であり、国家等の公権力と私人の関係を規律する法である公法(憲法・行政法)に対置されるものである。

・国や公共団体などの,公の機関が関わらない、世間一般の人たちのことについて定められた法律のことをいう。

・私法の一般法である民法における基本的な考え方においては、すべての人に区別なく適用されるルールのみを規定すべきとされる。


◆法の体系について、基本的な考え方を説明することができる。

※日本ではこの「法体系」の頂点には「憲法」が置かれている。
この憲法は日本の全ての法律、規則、条例などに優位する法である。
つまり、憲法は、法律などでその内容を変更することができない日本の最高法規である。

・ちなみに、憲法第98条第1項には「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と規定されていることからも、憲法は全ての法において優先することが理解できる。

(この事を一般的に「憲法の最高法規性」という。)

※また、憲法の内容を実現するために民法や商法、刑法といった主要な法律が定められていて、更に憲法、法律の内容を補完するために地方公共団体が制定する「条例」、各議院で制定する「議院規則」内閣が制定する「政令」などが定められている。


◆特別法と一般法の関係を、具体例を挙げて 説明することができる。

※一般法とはその分野に対して一般的に適用される法であり、特別法がない限りその法律は適用される。

・特別法は一般法に優先する。

⇒一般法と特別法とで法が異なった規律を定めている場合、特別法の適用を受ける事象は一般法の規律が排除され、特別法の規律が適用される。

・特別法が規定される理由はさまざまであるが、一般的にいえば、特別な分野に対しては一般的な法律の他にその分野特有の規律が必要であることから、特別法が定められるのが通例である。


◆民法は私法の一般法であるということの意味を説明することができる。

※民法は、広く一般的なルールについて定めている。これが、「一般法」という言葉の意味である。民法は、一般的な人間が、一般的にどうすればよいかについて定めてある法である。
・民法とは、人と人との争いごとを解決するさいの判断基準であるという「私法」の性格を有し、且つ一般的な人と人との関係について定めた「一般法」であるという性格を持つのである。

・民法は私法の一般法といわれている。私法に関係するのは民法だけではなく、商法・手形法・小切手法・労働法などがある。

【学説の整理】

 1 法律関係 の 主体 が 国 、公共団体であるものが公法、そうでないもの が私法 と説 く 「主体説 」がある。

 2 権力関係 に 関する法 は 公法 で あり、非権力関係に関す る法は私法 で あるとする 「権力説 」。

3 公益の保護 を目的 と する法が 公法で あり、私益の保護 を 目的とする 法が私法 で あるとす る 「利益説」 がある。


◆日本の民法典がどのような編別になっているかを理解している 。

※日本の民法典の編成は、パンデクテン方式を採用している。

本則は第1条から第1044条で構成される。

フランス民法及び旧民法は親族編に相当する人事編を冒頭に置くのに対し、近代個人主義的観点から、各人の身分関係に基づく権利変動よりも、その意思に基づく契約による権利変動を中心に据えるべきとの考えから、ザクセン民法典及びドイツ民法草案に倣い、親続編を相続編と共に財産に関する部分の後に配列している。

※このため、講学上は第1〜3編(総則、物権、債権)を財産法又は契約法、第4、5編(親族、相続)を身分法又は家族法と呼ぶ。

◇パンデクテン体系がどのような法典の構造になっているか、基本的な考え方 を説明することがで きる。


パンデクテン方式とは、民法典において、一般的・抽象的規定を個別的規定に先立ち「総則」としてまとめることにより、法典を体系的に編纂することに主眼をおいた著述形式である。

日本の民法典は、パンデクテン方式によって構成・記述されている。

・日本の民法典の目次を見ると、まず「第一編 総則」とあり、以下「第二編 物権」「第三編 債権」「第四編 親族」「第五編 相続」と続く。


◆私法の中の特別法の具体 例をいくつか挙 げることができる。

※特別法とはある分野に特化した法で、一般法と特別法の扱う範囲が競合する(かぶる)場合には、分野のスペシャリストである特別法が優先する。

民法の特別法は「借地借家法」「戸籍法」「遺失物法」「製造物責任法」など数多くあり、これらも実質的意味での"民法"ともいえる。

特別法には2種類の意味があり、民法を補充するもの(不動産登記法など)と民法を修正するもの(借地借家法など)に分けられる。


◆権利能力平等の原則について、基本的な考え方 を説明することができる。

※自然人は、すべて平等に完全な権利能力を有している。

すなわち、年齢や性別、身分、知的能力のいかんにかかわらず、すべての自然人はあらゆる権利の主体となることができる。これを、「権利能力平等の原則」という。

・この原則は、民法上、明確に規定されてはいません。しかし、法第3条第1項が「私権の享有は、出生に始まる」と規定していることから、民法上は当然の前提であると解されている。


◆私的自治の原則について、基本的な考え方 を説明することができる。

※私人の法律関係は、その自由な意思に基づいてなされるべきだという考え方を"私的自治の原則"という。

民法の三大原則の一つである。

私人間の経済活動などに公人や公的機関は介入すべきではないとし、私人個々の自己責任による自由な意思決定を意味する。ただし、この原則も多分に修正されている。

◇ 私的自治の原則の下位原則(契約自由、遺言自由、団体設立自由の原則)を挙げて、説明するこ とができる。


※契約自由の原則
※"私的自治の原則"は、私人間の法律行為は個人の自由意思によってなされるべきだという法律行為自由の原則を保障する。経済活動の多くは契約をによるので、この原則には"契約自由の原則"も含まれる。

・契約締結の自由:契約をするかしないかを自由に決められる
・相手方選択の自由:契約の相手方を自由に決められる
・契約内容の自由:契約の内容を自由に決められる
・契約方法の自由:契約の方式を自由に決められる

※団体結社の自由
・個は集まり、団体となって経済活動もする。よって私的自治の原則には団体結社の自由も含まれる。

※遺言の自由
・死後における財産の処分の内容について、原則として遺言によって自由に定めることができるとする"遺言の自由"も含まれる。

◇自己責任の原則(過失責任の原則)を説明できる。

※何の落ち度もなければ責任を問われることはない。

・個人は、自己の過失ある行為のみに責任を負い他人の行為には責任を負わない意味で「自己責任の原則」ともいわれる。

◇自己責任の原則と私的自治の原則との関係を説明することができる。

※仮に無過失でも責任を負うとすると、人はある法律行為から生じたありとあらゆる損害を賠償する責任を負うことになる。

その重すぎる責任により、人は、"私的自治の原則"によって保障されているはずの"自由な法律行為や経済活動"をするのをためらってしまう。

・損害賠償の責任を限定することで、人の自由な経済活動を保障・実現または促進しようとする"過失責任の原則"は、"私的自治の原則"を支えるひとつの重要な考え方といえるのである。


◆財産権絶対の原則について、基本的な考え方 を説明することができる。

※商品交換を中心とする市場経済は、商品を交換する者の間で、相互に商品としての財貨の上に固有の支配権が認められることを前提とする。

・この法律上の現れが財産権であり、その中心となるのが所有権である。

封建時代の反動もあり、財産権は神聖にして不可侵の基本的人権の一つとされ(フランス人権宣言17条、憲法29条参照)、これによって近代的な私有財産制度が確立された。

・私有財産制は、土地等の天然資源、生産手段・設備を私有とし、その管理・処分を個人の自由に委ねる制度であり、資本主義の発展に大きな役割をはたした。
ここで、財産権の中心的な権利としての所有権について、所有権絶対の原則が認められた。