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テーマ 外国人の人権

外国人に保障されている人権には何があるか。

(要点1)外国人の定義

この問題は、外国人の人権享有主体性のことであるが、ここで言う外国人とは、単純に日本国籍を有しない者のことをいう。

この場合は、日本に来た旅行者とかは関係ないとは言うわけではないが、むしろ、期間の長短を含めて外国人として日本に生活している者に大いに関係あることだと解釈する。

(要点2)外国人の人権享有主体性

思うに、憲法の人権規定には、原則として外国人に保障が及ぶものと及ばないものがあると解します。

⇒憲法が保障する人権には前国家的ないし前憲法的な性格を有するものが含まれること、また憲法には国際協調主義(前文)を採用している部分もあるからである。

 

【問題の所在】

外国人にも人権規定が適用されるか。

(a)否定説

まず、否定説は、日本国憲法の規定する人権では、日本国民にのみ保障される、と解する。

憲法の規定の第 3 章において人権について定めているが、その第 3 章で、「国民の権利及び義務」と題していること等を根拠とするからである。

ただし、この説は「立法政策として、外国人に対してなるべく人権を保障」することは、望ましいという立場に立つものであるので、次に述べる肯定説で論じられるように、「人権は、本来前国家的なものであるはずである」、という疑問があることである。

(b)肯定説

外国人も憲法の定める基本的人権の共有主体であると解するものである。

⇒これは、日本国憲法の人権規定が、一定の範囲内で外国人にも適用されることを意味する。

(理由)

1 人権は前国家的性格 を有すること。

2 憲法は国際協調主義 をとること(前文3段、98条2項参照)。

さらに理解を深めるために、肯定説は、外国人に対して、どのような人権が保障されるかを判別する基準に関して、文言説と性質説に分けて考えてみたいと思う。

(c)文言説

これは、日本国憲法の文言を手がかりにするものである。

憲法の人権規定のうち、

@「国民は」となっている規定は、外国人には適用されない。

A しかし、「何人も」となっている規定は、外国人にも適用されるとするのである。

これには、憲法の条文上、「国民は」と「何人も」が、厳格に使い分れているわけではない、などと指摘はあるが、例えば、憲法第22条第 2 項は、「何人も、(中略)国籍を離脱する自由を侵されない。」と規定しているので文言説においては解釈に難点があると思われる。

(d)性質説

そして、憲法の人権規定は、権利の性質が許される部分において、原則として外国人に対してもその保証が及ぶと解するものである。

⇒憲法が保障する人権の中には、権利の性質上外国人への保障に適さないものが含まれているからである。

(次の定義)

次に具体的にどのような人権が外国人に保障されるかを検討する。

1 自由権

(1)内心の自由、表現の自由等の精神的自由権も、前国家的性格なる要素を有する

⇒このことから、外国人にも保障される。

しかし、政治活動の自由においては、参政権的意義を含み、外国人には否定されるのではないかという問題がある。

(要点)憲法の民主主義採用と外国人の人権享有主体性

思うに、表現の自由の中には、そもそも参政権的意義を有していることもあり、その表現の政治的影響はむしろ、現代の意味を考慮すると当然であるように思える。

また、憲法は民主主義を採用している部分があり、その民主主義は相異なる複数の意見の共存を許容する原理でもあると考えられることである。

そうだとすれば、政治活動の自由も外国人にその保証が及ぶといえるかもしれないのである。

判例では、相当でないとする部分を除き、外国人の政治活動の自由を認めているので、在留期間中の政治活動の事実を在留期間中の更新の際の資料とすることは許される。

(マクリーン事件)

しかし、外国人に政治活動の自由を認める以上、その前提たる滞在の権利を奪うことも許されないので妥当とはいえない。

2 入国の自由・再入国の自由

(2)入国の自由、再入国の自由が、外国人に認められるかが問題となる。

 

検討1:入国の自由

まず、入国の自由は外国人には保障されないと解する。

⇒現在の国際慣習法上、外国人の入国の許否は、当該国家の自由裁量により決定されるとされ、現行憲法も上記の国際慣習法と同じ立場をとると考えるからである。

 

検討2:再入国の自由

再入国の自由は外国人にも保障されると解する。

・再入国とは、日本国に在留資格を有する外国人がその在留資格満了の日以前に、再び入国することをいうが、再入国の意思をもって出国することは、実質的にには一時的海外渡航と同視できる。

これは、憲法22条2項により保障されていると考えられるからである。

また、我が国には長期滞在して生活の拠点をもつ在留外国人が多数存在しているところから、再入国は新規の入国とは事情を異にすると思われる。

⇒この点、判例では、外国人の再入国を否定しているが妥当とはいえない。

(森川キャサリーン事件)

 

3 平等権

法の下の平等の原則(14条)は、前国家的性格を有するので、外国人にも保障される。

⇒ただし、外国人であるゆえに、合理的差別と判断される場合もあると考えられる。

 

4 社会権

社会権についても、後国家的性格であること、その生存権の責任は各人の帰属する国家にあることから、外国人には保証が及ばないと解する。

 

5 参政権

選挙権等の参政権(15条)は、その性質上その国の構成員であることを前提にしているところから、外国人に参政権を認めることは国民主権(前文、1条)にそぐわないので、従って、外国人には保証が及ばないと解する。

公務就任権にも同様の立場と解されるが、国家の意思形成に関係のない非管理的職務については、外国人就任権を認めてもよいと考える。

また、国民主権に反しない管理的職務においても外国人の登用が許されてよいと解する。

さらに、法律によって、地方議会の議員の選挙権を、住民である外国人に認めることは許容されていると解する。

(判例と同旨の立場)

⇒地方政治は地方住民の意思が反映されることが要せされ(住民自治)、また、外国人に選挙権を認めても国政の基本方針に影響がない以上、国民主権に反しないと考えられる。

 

6 受益権

最後に受益権のことに触れるが、外国人には、裁判を受ける権利などの受益権は、権利の性格上認められると解する。

以上。