学習テキスト

1−4−2 天皇制

−目次−

以下はこのページのもくじです。

    問題第1問   

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

    問題第6問

    問題第7問

 


問題第1問  

○天皇が日本国及び日本国民統合の「象徴」であって、この地位が「主権の存する日本国民の総意」に基づくものであることの意義を、大日本帝国憲法と比較して、説明することができる。

・日本国憲法においては、天皇は、「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」とされている。

⇒「象徴」とは、無形の観念を表す有形の物体をいい、平和を鳩で表すのがその例で、
「日本国の象徴」とは、主に対外的に日本国の存在を確認させる権能をもち、日本国の存立と性格が天皇によって体現されることを意味する。

※また「日本国民統合の象徴」とは、国内において、天皇以外の国民が、互いに結び合い一体を成す姿が天皇によって表されていることを意味している。

・天皇の地位は「主権」の存する「日本国民」の総意に基づくと定めてあり、天皇に主権があるのではなく「国民主権」がはっきりと規定されていうことである。

1. 国民の総意 : 国民全体の意思をいう
2. 元首 : 国家の首長をいい,国内的には,国会など他の機関に拘束されない一定の権限をもち,対外的には,国家を代表する者をいう
3. 統治権 : 国土と国民を支配する権利をいい、主権または国権とよばれることもある


問題第2問    

○刑事及び民事の裁判権が及ばないことなど、天皇の地位に基づく法的特例について理解している。

「天皇の刑事上の責任」
・天皇が刑事上の責任を問われ、刑事裁判権が天皇に及ぶか、という問題については、憲法に明文の規定はない。

⇒しかし、皇室典範第21条が「摂政はその在任中訴追されない」との規定を設けており、また「国事行為の臨時代行に関する法律」第6条が国事行為を臨時代行する皇族がその期間中「訴追されない」との規定を設けていることから類推して、天皇が刑事責任を問われることがないことは当然に認められていると解される。

・天皇については、象徴たる地位にあることから、刑事責任をとわれたり、その結果として刑罰を科せられたりすることのないよう、一般の国民とは異なる特別の扱いをすることは許されると解することができよう。

「天皇の民事上の責任」
・天皇が民事上の責任を問われ、民事裁判権が天皇に及ぶか、という問題についても、憲法に明文の規定はない。
⇒しかし、この問題については、刑事上の責任の場合とは異なり、天皇が純然たる私人として行った行為により他人に損害を与えたという場合には、損害賠償など民事責任を問われ、民事裁判権に服するというべきである。

※このような場合における天皇の民事上の責任を肯定することが直ちに天皇が象徴たる地位にあることにふさわしくないものであるとは解されない。

※ただし、天皇が被告または証人として出廷したりすることなどについては、場合により一般国民とは異なる扱いをすることは許されないわけではない。

・この問題について
(最高裁平成元年11月20日判決)
「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である」と判示した。

【参考】
・摂政や国事行為代行者は訴追されないことが皇室典範21条や国事行為臨時代行法6条により定められており、その類推から天皇も刑事責任を負わないと解されている。

⇒しかし天皇に民事裁判権が及ぶかどうかについては現行法に明確な規定は無い。1989年(平成元年)、昭和天皇の病気快癒を祈祷する目的で地方公共団体が公金を支出したことに対して住民が今上天皇に対して不当利得返還請求訴訟を起こした際、
最高裁判所は
「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないとかいするのが相当である。」という判例を出している。

※この判例について学説では私的行為について民事責任を問われることと象徴であることは必ずしも矛盾しないとして批判する声もあるのが事実である。


問題第3問    

○皇位が世襲であり、国会の議決する皇室典範の定めるところにより継承されることを理解している。

・皇位は世襲のものであり、選挙でも資格でもなく、血統によらなければ天皇にはなれない。  
⇒皇位の継承については、皇室典範の第1条に 「 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する 」 と定められている。  

※よって、天皇自ら自分の後継者を任意に決めることもできないのである。

・明治憲法においては、天皇は神聖不可侵のものとされ、皇室を律する皇室典範も、国民や議会の関与を許さない不可侵のものであった。  
⇒しかし、国民主権を採用する現行憲法においては、皇室典範も、国民の代表でつくる国会により制定されるものとして、 議会による統制を及ぼしうるようにしているということである。
 
・皇室典範では、その他にも、天皇が生前に退位することや、女子による皇位の継承などを禁ずる定めなどがあり、性差別の徹底的な排除が求められる昨今では、女子による皇位継承を認めるように、 皇室典範を改正するべきであるといった意見も出てきているのが現状である。


問題第4問    

○天皇の国事行為の内容及び法的性質、天皇の国事行為に対する内閣の助言と承認の意義及び手続について説明することができる。

・1号の 「 公布 」 とは、広く国民に知らせることをいい。公布は、官報をもって行われ、 公布によって国法として施行されることである。

※判例も官報による公布を正式は方法として認めている(最判昭32.12.28)

○公布による法令施行の時期
※「官報により公布があったとされるのは、一般国民の中の誰かが、その官報を見うるに至った最初の時点である」とされる。
(最大判昭33.10.15)

【参考】
⇒憲法改正の公布は、改正で取り沙汰されている「憲法第96条」に規定されている。

※法律の公布は、国会法第66条において、「奏上の日から30日以内」に公布しなければならないと規定されていること。
※政令・条約の公布は、特に規定がなく天皇の権能とされている。期日や方式は、内閣が決定し、「内閣の助言と承認により天皇が公布」するとある。

・2号の 「 国会の召集 」 は、一定期間に、「議員を集めて国会を開始」させる行為のことをいう。

・3号の 「 解散 」 とは、議員全員に対し、その任期の満了前に、議員の資格を失わせる行為である。

衆議院が内閣不信任案を可決し、衆議院が解散する場合などがあります。

【参考】
※現在の憲法では、解散権が誰にあるのか明記されていないが、第7条第3号・第54条・第69条の規定から、「解散権は内閣ではなく、天皇に認めていると考えられる。」

しかし、天皇の国事行為には、「内閣の助言と承認が必要」であるため、実質的な決定権は内閣にあるといえるのである。

・4号の 「 総選挙 」 とは、衆議院の任期満了、解散による総選挙と、 参議院の3年ごとの半数改選 ( 憲法46条 ) による通常選挙のことをいう。

【参考】
※この4号では、「国会議員の総選挙」と規定されているため、本号の総選挙には、衆議院議員総選挙だけではなく、参議院議員通常選挙も含まれると解されている。

・5号の 「 任免 」 とは、 「 任命 」 と 「 罷免 」 のことをいう。「 認証 」 とは、

「一定の行為が権限のある機関によって正当な手続きでなされたことを証明する国家機関の行為」をいいます。

ただし、認証自体は効力発生の要件ではなく、 認証を欠いたからといって、その行為が当然に無効になるわけではないということになる。

【参考】
※この第5号の規定には、国務大臣、最高裁判所判事、副大臣、検事総長、大使、公使、宮内庁長官、侍従長、公正取引委員会委員長などがあり、これらを認証官とも呼ばれる。

・6号の 「 恩赦 」 とは、訴訟法上の手続きによらずに、刑罰権の全部または一部を消滅させる行為をいう。

これには 「 大赦 」 「 特赦 」 「 減刑 」 「 刑の執行の免除 」 「 復権 」 の5種類が定められています。  

※「 復権 」 とは、交通違反などで免許を取り消された者など、 法律の定めるところにより資格を失ったり、停止されている者に対し、その権利の回復を行うことをいう。

※恩赦には、法の適用や裁判の後に生じた社会事情の変化による不都合を解消したりする効果があるとされている。
⇒ちなみに日本に恩赦という制度が伝わるのは、大化の改新のころ

【参考】
※恩赦とは、刑罰の全部または一部を免除したりするようなことであり、これは恩赦法に規定されている。

・7号の 「 栄典 」 とは、国家等に功労があった者の栄誉を表彰するため、特定人に対して認められる特殊な地位をいう。
⇒文化勲章や紫綬褒章などがその例として挙げられているが、実質的な決定権者は内閣であり、政令によってなされているのが現状である。  

※なお、 この「 栄典 」 を国事行為に限定するものではなく、 国民栄誉賞や内閣総理大臣賞などはこの規定に違反するものではないとされる。

【参考】
※国家や公共に対する勲功・功労を表彰して国から授けられる記章である。以下のようなものがある。勲章を与えることを、叙勲(じょくん)という。

・大勲位菊花章(大勲位菊花章頸飾、大勲位菊花大綬章)
・桐花大綬章
・旭日章
・瑞宝章
・宝冠章

昭和12年(1937)に文化勲章が設けられている。
※なお、武功に対して与えられた金鵄(きんし)勲章は昭和22年(1947)に廃止されている。

・8号の 「 批准 」 とは、全権大使などによってすでに調印された条約に対して同意を与え、 その効力を確定させる行為をいう。
⇒実質的には、内閣が審査をして確定される。 天皇は、この批准書に署名と捺印をして認証をすることになります。5号と同様、認証自体は効力の発生要件ではない。

【参考】
※政府代表が署名を行った後に、議会が否決した場合、批准は行われない。

議会による承認の手続を行った後、批准書を作成することになる。
⇒そして、作成された批准書は、天皇により認証されることとなる。

※このように、批准は手続きに時間がかかるため、近年では、批准に代えて、天皇による認証を要しない受諾の手続によって条約を締結することも多い。
(例)京都議定書、たばこ規制枠組条約などがこれである。

・9号の 「 接受 」 とは、外交使節に対して、接受国として反対のない旨の意思表示を与え、 その信任状を受ける行為をいう。

【参考】
@大使
※最上級の外交使節のことであり、正式には特命全権大使といわれる。
⇒派遣先の国に駐在して派遣元の国を代表し、派遣先の国との外交交渉や、派遣先国における派遣元国民の保護などを行う。

A公使
※大使に次ぐ外交使節のことであり、正式には特命全権公使といわれる。
⇒信任状を持ち国家を代表して他国に派遣され、その地位・職務・特権などは大使とほぼ同じ意味を持つ。

最近では単に外交使節団の一員として、文化交流、通商など専門分野において大使を補佐するために派遣される例も多いのが現状である。

・10号の 「 儀式 」 とは、天皇が主宰して執行する国家的な性格を有する儀式をいう。即位の礼や、大喪の礼などの行事が代表的なものとして挙げられる。


問題第5問    

○国事行為の摂政による代行及び国事行為の委任について理解している。

・天皇が未成年又は重篤な疾患等である場合に置かれる摂政が、天皇の人事不省等を想定して(天皇の意思にかかわらず)皇室会議の議により決定されるのに対し、国事行為臨時代行の制度は天皇にその発令意思(最低限度の意識)があることが前提となっている。

そのため、条文上の委任元(発令者)も天皇自身となっており、委任に際して内閣の助言と承認は当然必要となるものの皇室会議の議を経ることは手続要件とされておらず、摂政のように皇室会議等で(天皇に無断で一方的に)決定・発令することはできない。

※委任の対象者は一部の皇族に限られ、その具体的な範囲及び委任順序(順位)は、国事行為の臨時代行に関する法律により、摂政設置の場合(皇室典範第17条)と同じと規定されている。


問題第6問    

○国会開会式の「おことば」や外国元首の接受など、天皇が国事行為以外の公的行為を行うことができるか否か、その根拠、範囲及び責任の所在について説明することができる。

・公的行為に関しては、以下の考え方が示されている。

1 三行為説(国事行為と私的行為のほかに公的行為も認める見解)

@象徴行為説
「象徴としての地位に基づく公的行為」として容認する考え方である
A公人行為説
・内閣総理大臣などと同様に公人としての地位に伴う行為として容認する考え方である。

2 二行為説(国事行為と私的行為のみ認める見解)

@否定説
・そもそもそのような行為は認められないとする考え方である。
A国事行為説
・式典等への参加は憲法第7条第10号の「儀式を行ふこと」に該当する(国事行為に含まれる)とする考え方である。
B準国事行為説
・国事行為に密接に関連し、国事行為に準じる準国事行為として容認する考え方である。


問題第7問    

○皇室財産の帰属、皇室経費及び皇室財産の授受に関する憲法上の規律について理解している。

・日本国憲法では、憲法上の明文により、皇室財産は国に属するものとされ、皇室の費用は予算に計上して国会の議決を経ることとなっている(88条)。

⇒御料地は国有林に戻され、他の皇室財産も大規模に国の財産に転換されている。

※現在の法律では、国有財産の管理について規定する国有財産法第3条が、国有財産を目的が定まった行政財産とそれ以外の普通財産に分け、行政財産の一種に「皇室用財産」をおく。

この法律がいう国有財産は、不動産とその従物、船舶・航空機、株券・債券などに限られ、一般の動産は入らないとされている。

・憲法8条は、皇室に財産を譲り渡し、皇室が財産を譲られたり与えたりする際には、国会の議決を経なければならないとしている。
⇒実際には個々の財産変動に個別に議決が行われるわけではなく、皇室経済法第2条が、売買などの通常の私的経済行為、外国交際の贈答、遺贈・遺産の賜与には国会の個別の議決を必要としないと定めているほか、1年度の総額が皇室経済法施行法に基づく限度額内に収まる場合は、個別の議決を行っていない。

※なお、皇室経済法の例外に入るものでも、一度の額か一年度の総額が国有財産法第13条2項に定められたそれぞれの限度額を越えると、国会の議決が必要になる。限度額は国有財産法が定めるものの方が大きい。

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