学習テキスト

平和主義及び国際協調主義2

−目次−

以下はこのページのもくじです。

    問題第1問

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

    問題第6問

    問題第7問

 


問題第1問    

○憲法9条2項の定める「交戦権」の意味を説明することができる。

・日本国憲法では、第9条第2項後段において「国の交戦権は、これを認めない」という文脈で国のありようについて規定している。
⇒この文脈では「交戦権」という権利の存在が自明のものと受け止められており、この文脈では「戦争を行う権利」とされている
(その上で、日本国憲法はこの権利を認めないと宣言していると考えられている)。

・交戦権(国の交戦権はこれを認めない)について、(A)説(通説、宮沢俊義)は、交戦権とは交戦状態に入った場合に交戦国に国際法上認められる権利と解する説がある。
⇒これは国際法上の用法と一致する。

・対して(B)説(清宮四郎)は、交戦権とは文字通り戦いをする権利であるとする。

・更に(C)説(鵜飼信成)は、(A)(B)説両者を含むと解する折衷説なるものである。

【参考】
・しかしながら実は、このような意味での「交戦権」という言葉・概念は国際法上ではほとんど用いられておらず、またその定義・内容についても、実際のところは明らかではない。
⇒また、諸外国では「国が戦争を行う権利」という概念が、そもそもほとんど存在していない。日本国憲法における「交戦権」という言葉の意味や、その否定は、国際的には共通概念となってはいないといわざるを得ない。


問題第2問      

○自衛隊の合憲性について、裁判例を踏まえて、説明することができる。


・「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」という文言について、(A)説(通説)は、戦力とは、軍隊及び有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊であると解している。

・またこれに近い(B)説は、戦力とは軍隊又は軍備といった外敵との戦闘を主要目的に設けられた人的・物的組織体であり、警察力以上の実力であるとする(宮沢俊義)。
⇒従って、両説では自衛隊は戦力に該当し違憲となる。

・(C)説は最も厳格な解釈で、戦争に役立つ可能性のある一切の潜在的能力を戦力だとする説(潜在的能力説、鵜飼信成)である。
⇒しかしこの説は、武器生産から兵隊用のチューインガム生産まで、あるいは大都市の貨物埠頭からひなびた漁村の港まで、一切が戦力に該当することになり、戦力の範囲が広がりすぎるきらいがあるとされる 

・(D)説は、「近代戦争遂行能力説」、つまり戦力とは近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成を備えたものであるとする。
⇒これは、保安隊、警備隊発足にあたって示された第四次吉田茂内閣当時の政府統一見解であり、保安隊・警備隊は「警察力以上、戦力未満」の存在であるとされた。

・(5E)説は、自衛権は国家固有の権利として憲法第9条の下でも否定されておらず、自衛権行使=武力行使の為の実力を保持することは憲法上許されるのであり、従って憲法の禁じる戦力とは自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)を越えるものである、とする(自衛力説)。現在の政府解釈である。

※自衛権とは、通常、外国からの急迫又は現実の違法な侵害に対して、自国を防衛するために必要な一定の実力を行使する権利であると説かれる。

・その発動には、
(1)必要性(防衛行動以外に手段が無いこと)
(2)違法性(侵害が急迫不正であること)
(3)均衡性(自衛権発動が侵略排除に必要な最小限度であること)の3つの要件が要求される。

※この意味では自衛権は独立国家であれば当然に保有する権利であるが、政府解釈がこれに基づき「一定の実力」に該当する「自衛力」を認めるのに対し、通説(芦部信喜)は、民衆蜂起や警察力の転用、外交交渉といった非軍事的抵抗手段のみ認められるとする。

・最後に裁判例であるが、
1 憲法第九条はわが国の自衛権を否定するか。
※憲法第九条は、わが国が主権国として有する固有の自衛権を何ら否定してはいない。

2 憲法はわが国が自国の平和と安全を維持しその存立を全うするための自衛の措置をとることを禁止するか。
※わが国が、自国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使であって、憲法は何らこれを禁止するものではない。

3 憲法は右自衛のための措置を国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事措置等に限定し他国にわが国の安全保障を求めることを禁止するか。
※憲法は、右自衛のための措置を、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事措置等に限定していないのであつて、わが国の平和と安全を維持するためにふさわしい方式または手段である限り、国際情勢の実情に則し適当と認められる以上、他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではない。


問題第3問      

○自衛隊がいわゆる「国連軍」や「国連平和維持活動」などの海外行動に参加し又は派遣されることに関する憲法上の問題点について、説明することができる。

1 国際的な平和活動を行う際の憲法第9条との関係

※我が国が国際的な平和活動を行う際、憲法第9条の禁ずる「武力の行使」に当たらないことを確保するためには、
@我が国自身が「武力の行使」をしないこと、
A我が国自身は直接「武力の行使」をしていない場合でも他国による「武力の行使」と「一体化」しないこと
が必要とされている。

2 「武力の行使との一体化」論
・「武力の行使との一体化」論とは、「仮に自らは直接『武力の行使』をしていないとしても、他の者が行う『武力の行使』への関与の密接性等から、我が国も『武力の行使』をしたとの法的評価を受ける場合があり得る」とする考え方であり、「いわば憲法上の判断に関する当然の事理を述べたもの。」とされている。

・一体化を判断する考慮事項としては、
@戦闘活動が行われている、または行われようとしている地点と当該行動がなされる場所との地理的関係、
A当該行動等の具体的内容、
B他国の武力の行使の任に当たる者との関係の密接性、
C協力しようとする相手の活動の現況等
の諸般の事情を憲法の解釈と総合的に勘案して、個々的に判断すべきものとされている。


問題第4問      

○武力攻撃事態法など、有事に関する立憲主義的な規律の基本的な在り方について理解している。

・この法律はいわゆる「有事法」の基本法であり、具体的に日本が外国の武装勢力やそれに準じるテロ組織が日本を襲った場合に民間人を保護、緊急の避難をさせ、武力攻撃に対抗し武装勢力を排除し、速やかに事態を終結させるための日本の法律である。
⇒武力攻撃事態法などと略す。

第一条(目的)
・この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう。以下同じ。)への対処について、基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態等への対処のための態勢を整備し、併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的としている。


問題第5問      

○日米安全保障体制の基本的仕組みを理解した上で、その憲法上の問題点について説明することができる。

・我が国の安全保障のもう一つの根幹である日米安保体制も又、日本国憲法の平和主義の原理との関係において問題を抱えているとされる。

●第1節 集団的自衛権の問題
・例えば、第5条の共同防衛行動は、日本国内の米軍基地に対する攻撃でも発動されるが、
⇒これにつき政府は、その様な攻撃は日本領土の侵犯=日本への攻撃に他ならないから、共同防衛行動は個別的自衛権の行使であるとする。

※しかし、在日米軍基地への攻撃がそのまま我が国の自衛権発動の三要件(必要性、違法性、均衡性)を満たすかどうかは疑問で、決定権もアメリカ側にあるとされている部分。

●第2節 「極東」の範囲の問題
・また、(1)米軍の行動範囲である「極東」の範囲が不明確であり、しかも(2)国連憲章第51条の自衛権の発動に、先制自衛権(※注2)も含まれるのかについて両国の解釈の隔たりがあることから、我が国が意図しない紛争に巻き込まれる恐れがある、とされる

・もっとも、この「巻きこまれ論」は、国際政治学上は必ずしも正しくない。軍事同盟の功罪については、J・S・レヴィらが同盟形成と戦争に関する実証研究を行い、その結果、同盟形成と戦争に関するいかなる因果関係も検証されるに至っていない。
⇒つまり、「軍事同盟は戦争を招く」という議論は、国際政治学上は説得力を持たないのである。
 
※なお、「極東の範囲」の問題について政府は、1960年の統一見解では「フィリピン以北並びに日本とその周辺地域で、朝鮮、台湾地域を含む」としている。


問題第6問      

○駐留米軍が憲法9条2項の「戦力」に該当するか否かについて、判例を踏まえて、説明することができる。

●第3節 駐留米軍そのものの合憲性の問題
・更に、駐留軍の合憲性についても問題が残る、とされる。
(それが問題となった「砂川事件」である。

(判例)
☆争点1 
・駐留米軍は、憲法9条2項で禁じられている戦力の保持にならないのか?
 Yes、ならない。
・同条項において、戦力の不保持を規定したのは、我が国が戦力を保持し、自らその主体となってこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久に放棄することを定めた侵略戦争を引き起こさせないようにするためであると解するを相当とする。

・従って、同条2項が保持を禁止した戦力は、我が国が主体となって、指揮権、管理権を行使できる戦力のことであって、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊はたとえ我が国に駐留するものであっても、同条項の戦力には該当しないと解すべきである。


☆争点2 
・条約を司法審査の対象とできるか?
Yes、できる。
・本件、安全保障条約は、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものであるので、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣、承認した国会の高度の政治性ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくない。

・それ故、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまないものであり、一見して、きわめて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであって、それは第一次的には、締結権を有する内閣、承認権を有する国会の判断に従うべきで、終局的には主権を有する国民の政治的判断に委ねられる。
   ↓
  明白ならば、条約でも対象となると解釈できる。


問題第7問      

○憲法98条2項の定める「条約及び確立された国際法規」の遵守義務について、説明することができる。

1 条約の遵守義務について
・ 第98条の第2項では国同士の約束事である「条約」や国際間のルールである「国際法」を誠実に遵守ことを要求している。前文にも他国を無視して自国のことだけに専念してはならない旨が定められており、このような規定があるのは条約・国際法違反が多数国を巻き込んだ世界大戦を引き起こした苦い経験があるからという部分である。

2 憲法か条約かという部分について
・憲法学で議論されるものの中に「憲法と条約どちらが優越するか」という意味あいがみられる。
⇒学説においては、「憲法優位説」と「条約優位説」とに分かれていている。

3 憲法と条約の学説
@憲法優位説
【理由】
1 憲法に条約の制定方法が定められている。
2 憲法改正の方が条約制定より困難である。
3 憲法に条約優位を認める条文がない。

【私論からの反論】
・憲法に条約制定方法を定めるのはあくまで具体的説明したのにとどまり、憲法改正が条約より手続き困難であっても、憲法に条約優位の規定がなくても、それが憲法優位の理由にならない。

A条約優位説
【理由】
1 憲法自体が国際協調路線をとっている。
2 憲法98条2項に条約の遵守義務を定めている。
3 憲法81条に条約が違憲審査の対象になっていない。

【私論からの反論】
・憲法がいかに国際協調を基づき条約遵守義務を要求していようと、憲法の基本理念(平和主義など)に反する条約・国際法を、憲法に反して遵守する義務までを要求したものではない。最高裁も「条約が明らかに違憲である場合は違憲審査の対象になる。」と「砂川事件(第81条参照)」で判旨を述べている。

B優位無用説(私論)
・憲法と条約は優越を決する関係にない。それぞれを同じように遵守すればよい。
⇒それぞれが抵触した場合でも、その時の国際・国内の民衆感情に合わせて調整すればよいとするもの。

【理由】
1 憲法と条約に優越をつけるメリットがない。
2 憲法の基本理念に反する条約は排除されるべきである。
(例:日本に武力を要求するような条約)
3 国際感情に合わない憲法規定も時には排除されるべきである。
(例:日本国憲法は死刑を容認している)
4 AとBから優越をつけない方が国際事情に柔軟に対応しやすく、各国との協和を要求する憲法自体の趣旨にあう。  

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