学習口述テキスト

平和主義及び国際協調主義

−目次−

以下はこのページのもくじです。

    問題第1問

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

    問題第6問

 


問題第1問    

○憲法前文及び憲法9条に示されている国際平和希求の意義について、制定の経緯と歴史的背景を踏まえて理解しているか。

A 憲法9条第1項の「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」は戦争放棄の動機ないし目的について示したものと考えられている。
⇒なお、ここにいう「正義と秩序を基調とする国際平和」は憲法前文第2項の「恒久の平和」と同じ意味と解されており、憲法前文第2項にいう「専制と隷従、圧迫と偏狭」の支配する状態とは区別される国際社会を意味するものとされる。

※これは、敗戦の結果として、その後に戦争を放棄し、また、日本が好戦国であるとの世界の疑惑を除くというだけにとどまらず、積極的に自ら進んで、国際平和の実現に率先しようとする意志から発するものであることを示すものである。



問題第2問  

○平和的生存権の法規範性及び裁判規範性の有無について説明することができる。

A 憲法前文第2項の最後の部分に、
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存す る権利を有することを確認する。」とあるが、これが平和的生存権の規定である。

 前文であっても、憲法の一部であるから、その変更には96条の改正手続が必要であ り、
「98条1項の最高法規の一部として国会を始めとするすべての国家機関を拘束する」 、その意味で法規範性があるという点については異論がないとされる。

 しかし、これまでの通説的見解では、「憲法前文には法規範性はあるが、裁判規範 性はない」と解されてきている。

ここで裁判規範性とは、「裁判所に対してその保護・救済を求め、法的措置の発動を 請求し得る規範という意味」で、具体的権利性ともいいます。これを否定するのが通 説である。

 その理由は、
「前文は憲法の理想・原則を抽象的に宣明したものであって具体性を欠く」というも のである。

そのため、平和的生存権も裁判規範性のない権利であり、裁判所で救済してもらえる ような具体的権利ではないと解されてきている。

 判例でも、自衛隊の存在を違憲とした長沼事件1審判決が裁判規範性を肯定したの みでした(札幌地裁昭和48年9月7日)。長沼2審では明確にこれを否定しています( 札幌高裁昭和51年8月5日)。この点に関する最高裁の判断はない。


問題第3問    

○憲法9条の法規範性及び裁判規範性の有無について説明することができる。

A 名古屋高裁の判決と解説より

 こうした状況の中で、今回の名古屋高裁はこれを明確に肯定している。まず、以下 のように法的権利であることを明言します。

「現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしに存立し得ないことから して、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利である ということができ、単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない。 法規範性を有するというべき憲法前文が「平和のうちに生存する権利を」を明言して いる上に、憲法9条が国の行為の側から客観的制度として戦争放棄や戦力不保持を規 定し、さらに、人格権を規定する憲法13条をはじめ、憲法第3章が個別的な基本的人 権を規定していることからすれば、平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認め られるべきである。」

次に、裁判規範性(具体的権利性)について以下のように述べている。

「そして、この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態 様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対してその保護・救済を 求め法的措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合 があるということができる。例えば、憲法9条に違反する国の行為、すなわち戦争の 遂行、武力の行使等や、戦争の準備行為等によって、個人の生命、自由が侵害され又 は侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされる ような場合、
また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には 、平和的生存権の主として自由権的な態様の表れとして、裁判所に対し当該違憲行為 の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合があると解 することができ、その限りでは平和的生存権に具体的権利性がある。」

そして、国側の主張である否定説に対して次のように明快に批判している。

「なお、「平和」が抽象的概念であることや、平和の到達点及び達成する手段・方法 も多岐多様であること等を根拠に、
平和的生存権の権利性や、具体的権利性の可能性を否定する見解があるが、憲法上の 概念はおよそ抽象的なものであって、解釈によってそれが充填されていくものである こと、例えば「自由」や「平等」ですら、その達成手段や方法は多岐多様というべき であることからすれば、ひとり平和的生存権のみ、平和概念の抽象性等のためにその 法的権利性や具体的権利性の可能性が否定されなければならない理由はないというべ きである。」

※憲法9条の法規範性においては、憲法上の法的な権利として認められるべきであり 、また、裁判規範性においては、平和的生存権には記したように具体的権利性がある といえる。


問題第4問    

○憲法9条1項によって「放棄」すると宣言された「国権の発動たる戦争」、「武力 による威嚇」及び「武力の行使」の意味を説明することができる。


・憲法9条第1項の「国権の発動たる戦争」とは、国際法上、国の主権に基づいて、当 然に発動として行われる武力(兵力)の行使による国家間の闘争をいう。
⇒これは、宣戦布告又は最後通牒という形で明示的に、あるいは武力行使による国交 断絶という形で黙示的に戦争の意思表示が表明されることを要件とし、戦時法規が適 用を受けるものであり、形式的意味の戦争とも呼ばれている。

・「武力による威嚇」とは、武力を背景に自国の要求を相手国に強要することにより 、現実には武力を行使していない状況のことである。
⇒もし「自国の要求を入れないときは武力を行使する」との意志と態度を示して、相 手国を威嚇することをいう。

・「武力の行使」とは、「宣戦布告」等の戦争の意思表示を示すことなく行われる国 家間の事実上の武力の衝突を意味する。
⇒実質的意味の戦争とも呼ばれ、過去の事例でいえば、1931年の「満州事変」、同3 7年の「支那事変」(日中戦争)がその例である。

※いずれも、日本は、正式な戦争の意思表示をせず、当時の国際連盟規約および不戦 条約の下で一般に禁止されている「国権の発動たる戦争」を回避する形で中国に対し ておこなった事実上の武力行使である。

※こうした武力の行使に際し、当事国は、上記の非兵力的効果、第三国の中立義務違 反に対する実力行使権を主張することはできない。
⇒この意味での「武力の行使」は「国権の発動たる戦争」とは区別され、憲法がこの 意味を放棄の対象とした意味は、「国権の発動たる戦争」を放棄したとしても、これ に似た戦闘行為や侵略行為が容認されるならば、そもそも憲法の意図する「国際平和 」を達成することはできず、世の中の安全を保てないからである。


問題第5問    

○個別的自衛権及び集団的自衛権の意味を説明することができるとともに、憲法9条 が自衛権に関してどのように定めているかについて、判例を踏まえて説明できる。

・個別的自衛権とは、国連憲章第五十一条により、国連加盟国に認められた自衛の権 利のことをいう。
⇒自国が他国から武力攻撃を受けた場合に、自国を防衛するために武力の行使をもっ て反撃する国際法上の権利である。

※これは他国からの武力攻撃に対し、「実力をもってこれを阻止・排除する権利」と いってもいい。

・これに対し、集団的自衛権は、国連憲章において初めて明記された概念であり、「 自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにも かかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義されている。
⇒いわば、他国に対して武力攻撃があった場合に、自国が直接に攻撃されていなくて も、密接な関係にある外国に対する武力攻撃に対応して、実力を以って阻止・排除す る権利のことをいう。

※集団的自衛権の本質は、自衛権を行使している他国を援助して、これと共同で武力 攻撃に対処するというところに本質があるが、この自衛権の概念については、様々な 見解も存在する。

@自衛権放棄説
・戦争放棄・戦力不保持を規定する憲法9条の下では、19世紀以来の伝統的な「自衛 権」は放棄されていると説くものである。
⇒これは二つの説に分かれる。

a実質放棄説
・憲法制定時、吉田元首相の答弁に代表されるものであり、9条は形式的には自衛権 を否定していないが、見るからに、「近年の戦争は多くの自衛の名のもとにおいて行 使された」ことは、明白な事実であるとされる。

※したがって、自衛権を認めることは戦争の誘発にかかわる「有害な考え」とみて、 9条は自衛権を実質的に放棄しているとするものである。

b形式放棄説
・「自衛権」が不可避的に「武力の行使」、要するに「戦力」の発動を伴うものであ る以上、この意味での「自衛権」は、「戦力」の保持を禁じた日本国憲法の下での形 式的に放棄されており、自衛概念の濫用を防ぐためにもその行使を避けるべきである ものとする。

※これらに対する批判
・これらの自衛権放棄説には、憲法第9条は自衛権行使の仕方に一定の制約を加えて いると見るならばともかく、日本もまた主権国家であるがゆえに、「自衛権」そのも のまでをも放棄していると解することはできないのではないかという疑問が提起され ている。

A自衛権留保説
・主権国家の固有の権利としての、「自衛権」を保持することは、「国際法の一般原 則」であるとして、憲法9条といえどもこの権利を不定しうるものではないとする。
⇒この説は、憲法上留保されているとする自衛権は、その内容に応じて、次の三つに 分かれる。

@)非武装自衛権説
・9条2項で,警察力を超える「武力」「戦力」で行使することを禁止するというもので ある。
⇒全面放棄説をとる人々の多数説の説くところであり、憲法は「自衛権」の行使の手 段としての「武力」を放棄すると解する部分から、「武力なき自衛権」ともいわれる
a外交交渉で未然に回避 b警察力で c群民放棄 などで対処するとされる。

A)自衛力留保説
・9条2項は「戦力」にいたらない実力保持を禁止していないとするものである。
⇒よって,これにより「自衛力」は留保されているとするもの

【限定放棄説と関係】
A 疑問の提示
・自衛権の容認は自衛力容認といえるかという部分である。
自衛権の保持は、国家「固有」 は自明かとするものである

B他の論拠
・13条の「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利」を守るため,国権を発動し ての防衛が要請される

Cその反対論
・生命,自由,安全を守るために9条を置いたとするものである。

B)自衛戦力留保説
・自衛権に基づく自衛戦争を行い,そのための戦力保持は否定されていないとするも のである

【限定放棄説と関係】
・その前提とする限定放棄説そのものが多くの難点があることから、これを支持する は少数である。

◆自衛権に対する判例の態度 
 砂川事件(駐留米軍について) に対して、
 S34.3.30 東京地裁は
 「9条は自衛権を否定しないが,侵略戦争,自衛戦力を用いた戦争,自衛戦力の保 持も許さない」としている。

S34.12.16 最高裁の判断
「自衛権は否定しない。憲法の平和主義は決して,無防備,無抵抗を定めたものでは ない。必要な自衛の措置をとりうることは国家固有の権能の行使として当然」である

自衛権留保説に基づきつつ,自衛戦力の保持を否定するが,独自の自衛力を保持する ことが認められていると解しているのか,裏づけとなる独自の武力の保持がだめなの かあいまいなことである。

長沼事件を見てみると、
一審の判断
「固有の自衛権は放棄したとは解釈すべきではない。自衛権を保有し,行使すること はただちに軍事力による自衛に直結しなければならないものではない」
 ↓
非武装自衛権説に立っている。


問題第6問    

○憲法9条2項の定める「戦力」の意味を説明することができる。


@転用可能な潜在能力説
・最も広義に解釈されている。
 その他の戦力(other war potential)に注目し、陸海空軍のような組織されたも のの他,「戦争に役立つ可能性をもったすべての潜在的能力」とするもの。

A警察力を超える実力説
・通常,「軍隊」とよばれる「目的,実体ともに対外的軍事行動のために設けられて いる人的組織力と物的装備力」と,有事に転用できる実力部隊とするもの
⇒警察力と区別するものとして「軍隊」があり,警察力の能力を超えれば「戦力」と する

※50年ごろまで 
・警察予備隊創設の頃までの政府見解であり、この説によると,保安隊も自衛隊も「 戦力」となる

B近代戦争遂行能力説
・保安隊・警備隊が発足した当初の政府の統一見解(吉田W内閣)である。
⇒「戦力=近代戦争遂行に役立つ装備・編成」とすると、保安隊などはこれにあたら ないとされる。

C自衛に必要な最小限度を超える実力説
・MSA援助を受けるため「自国防衛力増強」の法的義務を負うことにより、自衛隊法 成立した。
⇒政府見解 (鳩山T内閣) 
「戦力=自衛に必要な最小限度の実力を超える」ものであり、自衛隊は「戦力」にあ たらないとされる。
※以後の政府見解となる

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