学習テキスト

憲法の保障

−目次−

以下はこのページのもくじです。

    問題第1問

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

 
 


問題第1問   

○憲法の保障に関する制度について理解しているか。

※憲法は、国の最高法規であるが、この憲法の最高法規性は、ときとして、法律等の下位の法規範や違憲的な権力行使によって脅かされ、歪められるという事態が生じる。

・そこで、このような憲法の崩壊を招く政治の動きを事前に防止し、または、事後に是正するための装置を、あらかじめ憲法秩序の中に設けておく必要がある。

※その装置を、通常、憲法保障制度と言う。

※憲法保障制度を大別すると、
@憲法自身に定められている保障制度と、
A憲法には定められていないけれども超憲法的な根拠によって認められると考えられる制度がある。

・@の例を日本国憲法で示すと、憲法の最高法規性の宣言(98条)、公務員に対する憲法尊重擁護の義務づけ(99条)、権力分立制の採用(41条・65条・76条)、硬性憲法の技術(96条)などのほか、事後的救済としての違憲審査制(81条)がある。

・Aの例としては、抵抗権と国家緊急権が挙げられる。
※その他に、法律レベルでも、刑法の内乱罪(77条)、破壊活動防止法等の規定により、憲法秩序の維持が図られている。


問題第2問   

○抵抗権の内容、意義及び問題点について。

※抵抗権
・国家権力が人間の尊厳を侵す重大な不法を行った場合に、国民が自らの権利・自由を守り人間の尊厳を確保するため、他に合法的な救済手段が不可能となったとき、実定法上の義務を拒否する抵抗行為を、一般に抵抗権と言う。

・抵抗権の考えは古くからあり、人権思想の発達に大きな役割を演じたが、それが実際に重要な意味をもったのは近代市民革命の時代であった。

・自然権の思想と結び合って、「圧制への抵抗」の権利が強調され、若干の人権宣言の中にも謳われた(1789年・1793年のフランス人権宣言参照)。 その後、近代立憲主義の進展とともに、憲法保障制度が整備され、抵抗権は人権宣言から姿を消してしまう。

※それは、抵抗権が本来、個人の権利・自由として実定化されることに馴染まない性格をもっているからである。

確かに、第二次世界大戦時におけるファシズムの苦い経験を経て、戦後、抵抗権思想が復活し、それを再び人権宣言の中に規定する憲法も現れるようになったが、それは本来の抵抗権をすべてカバーするものではない。

※抵抗権の本質は、それが非合法的であるところにあり、制度化に馴染まないと解される。 一定の内容の実定化が可能であるにとどまる。

・日本国憲法が国民の抵抗権を認めているかどうかは、抵抗権の意味・性格をどのように理解するか、とくに抵抗権は自然法上の権利か実定法上の権利か、という難しい問題と関わるので、簡単に結論を出すことは出来ない。

※基本的人権を国民は「不断の努力によつて」保持しなくてはならないこと(12条)から、ただちに実定法上の権利としての抵抗権を導き出すことは、きわめて困難であるが、憲法は自然権を実定化したと解されるので、人権保障規定の根底にあって人権の発展を支えてきた圧政に対する抵抗の権利の理念を読みとることは、十分に可能である。


問題第3問   

○国家緊急権の内容、意義及び問題点について理解している。

※戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など、平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限を、国家緊急権と言う。

・この国家緊急権は、一方では、「国家存亡の際に憲法の保持を図るものであるから、憲法保障の一形態と言えるが、他方では、立憲的な憲法秩序を一時的にせよ停止し、執行権への権力の集中と強化を図って危機を乗り切ろうとするものである」から、立憲主義を破壊する大きな危険性をもっている。

・従って、実定法上の規定がなくても、国家緊急権は国家の自然権として是認される、とする説は、緊急権の発動を事実上国家権力の恣意に委ねることを容認するもので、過去における緊急権の濫用の経験に徴しても、これをとることはできない。

・超憲法的に行使される非常措置は、法の問題ではなく、事実ないし政治の問題である。 この点で、自然権思想を推進力として発展してきた人権、その根底にあってそれを支えてきた抵抗権と、性質を異にする。

※そこで、19世紀から20世紀にかけての西欧諸国では、非常事態に対する措置をとる例外的権力を実定化し、その行使の要件等をあらかじめ決めておく憲法も現れるようになった。

それには、
@緊急権発動の条件・手続・効果などについて詳細に定めておく方式と、
Aその大綱を定めるにとどめ、特定の国家機関(例、大統領)に包括的な権限を授権する方式
の二つがある。

※しかし、危険を最小限度に抑えるような法制化はきわめて困難であり、二つの方式のいずれも、多くの問題点と危険性を孕(はら)んでいる。とくにAは、濫用の危険が大きい(例、ワイマール憲法48条の定める大統領の非常措置権)。

※我が国では、明治憲法は緊急権に関する若干の規定を設けていたが(8条の緊急命令の権、14条の戒厳宣告の権、31条の非常大権など)、日本国憲法には、国家緊急権の規定はない。


問題第4問    

○憲法99条の定める憲法尊重擁護義務の主体、内容及び違反に対する制裁などについて説明することができる。

※憲法の本質は、国民の基本的人権の擁護にあり、そのために様々な方法を講じている。その一つに、国家権力の抑制と監視制度としての権力分立がある。過去の歴史において、国家権力こそが基本的人権を侵害する元凶であったためである。

・現在の憲法では、国の政治は国民の信託を基盤にし、国家機関を担当し直接・間接に憲法を運用する公務員の選定・罷免は国民固有の権利であり、公務員は全体の奉仕者とされている。

しかし、本条によりさらに、天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官・その他の公務員に憲法尊重擁護義務を負わせているのは、最高法規である憲法が侵害されれば、その下に成立している他の法秩序が破壊され、国民に対する人権侵害が行われる可能性があるため、これがなされないようにとの趣旨である。

・注意しなければならないのが、本条には「国民」という言葉がないということである。

この点については、憲法制定時においても問題だと指摘されていたが、そもそも憲法とは国民自らが定めたものであり、それを自ら破壊するということは考えられず、また、国民にとっては憲法を尊重擁護することが利益となるため、あえて国民という言葉を入れる必要性はないといえる。

また、現在の憲法の前の大日本帝国憲法の上諭には、「朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ」と規定されていたが、現在の憲法は大日本帝国憲法とは本質がまったく異なるということを明示するためだとも考えられている。

・結局のところ、誰もが憲法を尊重し擁護する義務があるということである。


問題第5問    

○違憲審査制が憲法保障の制度として重要な役割を果たすようになった歴史的沿革について理解している。

※憲法八十一条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終身裁判所である」と規定して、違憲審査制の導入を明示している。

この制度は西欧の立憲主義国家において、憲法保障制度として重要な役割を果たしてきた。

すなわち憲法の優位(最高法規制)を認め、裁判所に、立法やその他の行為が、この憲法に適用するか否かの審査をさせる権限を与え、憲法の最高法規制を保持しようとしたものである。

憲法八十一条は、このような違憲性を決定する権限を最高裁判所に帰属させている。また、下級裁判所も同様である。この権限を一般に違憲立法審査権という。
 
・憲法上で、このような制度を設けた根拠としては、主として次の三点の理由があるといえる。

・第一は、憲法の最高法規制の観念である。

憲法自体が「この憲法は、国の最高法規制であって、その条規に反する法律、命令、勅諭及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その勅諭を有しない」(九十八条)と定めて、憲法こそが国法体系における最高法規制を強調しているが、これを手続的に担保しようとした法律論的理由である。

・第二は、憲法の下に三権が平等に併存すると考える、アメリカ的な権力分立の思想といえる。

すなわち、立法、行政の違憲的な行為を違法が統制し、権力相互の抑制を確保するために、この制度が要請されるという制度的理由である。

・第三は、基本的人権尊重の原理である。

基本的人権の確立は近代憲法の目的であり、かつ憲法の最高法規制価値もそれに裏付けられている。

したがって憲法で保障された基本的人権が、立法権や行政権の侵害から守って、裁判所をいわば「憲法の番人」にしようとする実戦的理由である。

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