学習テキスト

1−2−1 憲法の変動 

−目次−

以下はこのページのもくじです。

    問題第1問

    問題第2問

    問題第3問

    問題第4問

    問題第5問

 


問題第1問    

○憲法改正の意味を説明することができる。

※憲法の基本原理を維持しつつ,正規の改正手続にしたがって憲法正文を変更(削除・修正・追加・増補)する作用である。

憲法の基本原理を変更する作用である憲法制定から内容上区別され,また正規の改正手続によらないで憲法正文を実質的に変更する憲法変遷から形式上区別される。

※近代の憲法典は,憲法を変更する方法として,普通の立法手続に比べて加重された改正手続(憲法改正条項)を定めているのが普通である。

その趣旨は,国の根本法である憲法の安易な変更を防ぐとともに,
合法的変更の道を開いておくことにより憲法が時代の変化に柔軟に対応していくことを可能とし,全体として憲法の安定性と永続性を確保しようとすることにある。


問題第2問      

○憲法96条が定める憲法改正手続について、憲法改正原案の発案権の所在、「発議」及び「提案」の意味、並びに議決及び承認の要件などを説明することができる。また、「日本国憲法の改正手続に関する法律」の基本的仕組みについて詳細に理解しているか。

※憲法改正の手続を規定する憲法第 96 条は、次の 3 つの要素から成っている。

@衆参各議院の総議員の 3 分の 2 以上の賛成で、国会が憲法改正に関する発議・国民への提案を行う。
A特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。
B憲法改正について国民投票による承認を得たときは、天皇は、国民の名で、公布する。

※このように、日本国憲法は、通常の法律の制定と比べて、より厳格な改正手続を備えた憲法であり、この点で硬性憲法であるといえる。


問題第3問  

○憲法改正権の性質及び「改正の限界」の意味を説明することができる。また、憲法改正に限界があるか否か、及びその限界の具体的内容について、日本国憲法に則して、説明することができる。

※憲法改正の@及びAの手続に関し、学説上見解が分かれている。

※我が国では、国民の主権は絶対的である(制憲権は全能であり、改正権はその制憲権と同じである)と考える理論、ないし憲法規範には上下の価値の序列を認めることは出来ないと考える理論に基づいて、憲法改正手続によりさえすれば、いかなる内容の改正も法的に許されると説く無限界説もある。

・しかし、法的な限界が存するとする説が通説であり、かつ、それが妥当と解される。 この限界説の論拠として説かれている理由で重要なものは、次の二つである。

(一)権力の段階構造
・民主主義に基づく憲法は、国民の憲法制定権力(制憲権)によって制定される法である。

・この制憲権は、憲法の外にあって憲法を作る力であるから、実定法上の権力ではない。

そこで、近代憲法では、法治主義や合理主義の思想の影響も受けて、制憲権を憲法典の中に取り込み、それを国民主権の原則として宣言するのが、だいたいの例となっている。

・また、その思想は、憲法改正を決定する最終の権限を国民(有権者)に与える憲法改正手続規定にも、具体化されている
(日本国憲法96条の定める国民投票制はその典型的な例である)。

※憲法改正権が「制度化された憲法制定権力」とも呼ばれるのは、そのためである。

このように、改正権の生みの親は制憲権であるから、改正権が自己の存立の基盤とも言うべき制憲権の所在(国民主権)を変更することは、いわば自殺行為であって理論的には許されない、と言わなければならない。

(ニ)人権の根本規範性
・近代憲法は、本来、「人間は生まれながらにして自由であり、平等である」という自然権の思想を、国民に「憲法を作る力」(制憲権)が存するという考え方に基づいて、成文化した法である(第一章四2参照)。

・この人権(自由の原理)と(一)にふれた国民主権(民主の原理)とが、ともに「個人の尊厳」の原理に支えられ不可分に結び合って共存の関係にあるのが、近代憲法の本質であり理念である(第三章一2参照)。

・従って、憲法改正権は、このような憲法の中の「根本規範」とも言うべき人権宣言の基本原則を改変することは、許されない。

もっとも、基本原則が維持されるかぎり、個々の人権規定に補正を施すなど改正を加えることは、当然に認められる。

(三)前文の趣旨
・日本国憲法は、前文で、人権と国民主権を「人類普遍の原理」だとし、「これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と宣言している。

・これは、ただ政治的希望を表明したものではなく、以上のような、憲法改正に法的な限界があるという理論を確認し、改正権に対して注意を促す意味をもっている。

・ドイツ連邦共和国憲法が、国民主権と人権の基本原則に影響を及ぼす改正は許されないと定め(79条)、フランス第五共和制憲法が、共和政体を改正することはできないと定めている(89条)のも、同じ趣旨である。

(四)平和主義・憲法改正手続
・改正権に限界があるとすると、国内の民主主義(人権と国民主権)と不可分に結び合って近代公法の進化を支配してきた原則と言われる国際平和の原理も、改正権の範囲外にあると考えなくてはならない。

・もっとも、それは、戦力不保持を定める9条2項の改正まで理論上不可能である、ということを意味するわけではない(現在の国際情勢で軍隊の保有はただちに平和主義の否定につながらないから)、と解するのが通説である。

・なお、憲法96条の定める憲法改正国民投票制は、国民の制憲権の思想を端的に具体化したものであり、これを廃止することは国民主権の原理を揺るがす意味をもつので、改正は許されないと一般に考えられている。


問題第4問      

○日本国憲法の制定過程について、その歴史的経緯を理解した上で、法的観点から説明することができる。また、日本国憲法施行前に制定された法令の日本国憲法下における効力、及びポツダム宣言受諾による占領法規の占領終了後の効力について理解している。

【日本国憲法の成立について】
★憲法変革問題の起因
・1945年に、日本は連合国に無条件降伏し、ポツダム宣言を受諾した。そして、連合国軍の占領下のなかで新たな日本国憲法が制定されたのである(1947年)。

・日本国憲法は、敗戦・占領という外圧で制定されたが、明治憲法下の統帥権の独立(明治憲法11条)の濫用等、改正すべき内在的理由もあった。

★日本国憲法の制定過程
・日本国憲法は、1946年11月3日に公布され、1947年5月3日から施行された。
※日本国憲法の制定過程は、大きく2つに分けられる。

(1)日本国政府、独自の作成案があった段階
・1945年8月14日のポツダム宣言受諾以降、連合国軍最高司令部の明治憲法自由主義化の示唆に基づいて、日本政府が作成した明治憲法改正案が、総司令部に拒否された。

・そして、1946年2月13日、日本国政府作成案に変わる原案(マッカーサー草案)を手渡されるまでの経緯である。

(2)マッカーサー原案受託以降
・日本国政府に革命的変革を促す、マッカーサー原案を受託せざるを得なくなり、それで憲法制作をすすめていく段階。

※日本における軍国主義の除去と、平和的政府の樹立、基本的人権の尊重理念の確立を目的としたポツダム宣言の受諾は、日本にそれらを実行する国際的義務を生じさせた。

・要は、「天皇主権」の明治憲法は改正せざるを得なかったのだ。結果、日本政府はマッカーサー草案をのむしかないと判断している。

★日本国憲法成立の法理
◇民主国家における憲法は、一般に、国民の自由意思に基づいて制定される。

・従って、日本の憲法制定時にアメリカが原案の作成で介入したことは、国際法的に内政不干渉の原則に、また、国内法的には憲法の自律性の原則に違反するか問題になる。

※憲法の自律性=主権国家は、自らの政治的・経済的・文化的システムに他国から干渉を受けず、自由に選択する不可譲の権利を保持する。

※伝統的国際法に根拠を持つ原則。
◇日本国憲法の自律性
・結論的には日本国憲法の成立において、憲法の自律性の原則が法的に損なわれていなかったと解することができる。

以下、日本国憲法の自律性を
【1】国際法的観点と、
【2】国内法的観点から論ずる。


【1】国際法的観点

※国際法的には、
(1)ポツダム宣言・降伏文書の法的性格
(2)条約上の権利に基づく介入と、憲法の自律性の原則
(3)ハーグ陸戦法規との関係
という、3点から考察する必要がある。


(1)ポツダム宣言・降伏文書の法的性格
・ポツダム宣言・降伏文書の2つを、国際法上の「条約」ではなく、戦勝国の敗戦国に対する一方的「命令」と解すれば、憲法の自律性が認められないと考えることもできる。

・しかし、この2つの文書は一種の休戦「条約」と解されるので、条約であれば、連合国と日本国には「法的」権利義務関係に立っていると解せられ、憲法の自律性を損なっていないと解せられる。

(2)条約上の権利に基づく介入と、憲法の自律性の原則
・次に、この休戦条約が明治憲法の改正という形態をとったものと言えるかが問題となる。

・この点、明治憲法の基本原理(天皇主権等)を維持し、ポツダム宣言の趣旨(国民主権等)を実行することは不可能である。したがって、ポツダム宣言には、「その趣旨に沿う憲法改正の要求が含まれていた」と解される。

・そうすると、連合国は日本国憲法がポツダム宣言の諸条項に合致することを要求する権利を有することになる。しかし、問題は「条約」の権利に基づいて、相手国の憲法と政治形態に関与することが内政不干渉および憲法の自律性に反しないか?である。
(条約という契約で、国の根幹の憲法とか決めちゃっていいの?という疑問)

・この点、国際平和と安全に仕える条約に基づく介入あれば、国際法違反にならないと解されている。
(平和・安全利用だからOKという感じ)

(3)ハーグ陸戦法規との関係
・もっとも、日本国憲法は、国際法的にハーグ陸戦の法規慣例に関する条約(1907年)との関係が問題となる。
(ハーグ法規の占領者は、「占領地の法律等を尊重せよ」という趣旨に反しないか?)

・この点、陸戦法規は「交戦中」の占領に適用されるもので、日本の占領は「交戦後」だから、陸戦法規は原則適用されないと解することができる。

・仮にハーグ法規が適用されるとしても、休戦条約が成立しているので、特別法(休戦条約)は一般法(ハーグ陸戦法規)を破り、休戦条約を優先的に適用されると考えることができる。

【2】国内法的観点
・日本国憲法は、以下の理由から不十分ながらも憲法の自律性に反しないと解することができる。

(1)日本国憲法の自律性は、ポツダム宣言等によって、条件付きとされていた
(2)国民主権・基本的人権の尊重は、近代国家の一般原理であるこ とである
(3)当時の日本政府が「ポツダム宣言の趣旨を理解できず」、近代憲法を作れなかった
(4)日本国民の多くが近代憲法の価値体系を意識し、政府もマッカーサー草案の審議を積極的に支持したこと
(5)完全な普通選挙による特別議会の審議によって可決されたこと
(6)極東委員会の指示で改正の機会があったのに、政府は改正の必要なしとしたこと
(7)憲法の基本原理が社会に浸透したこと 


問題第5問      

○憲法変遷の意味、及び日本国憲法の下において憲法変遷に規範的意義が認められるか否かについて説明することができる。

@憲法の変遷の概念の創始者はラーバントだが,変遷の概念を体系化したのはイェリネック。イェリネックの変遷概念は,「憲法の規定の規制力についての話と憲法の施行実態の話の両者を混然と包摂していた。」そこから,様々な学説が唱えられることになった。

A憲法の変遷という概念は,現在では,「法社会学的意義の変遷と法解釈学的意義の変遷と2つの異なる意味」で用いられる。

B法社会学的意義の憲法の変遷が認められることについては,現在ではほとんど異論がない。憲法の条文の規範内容と施行実態という事実とのズレを客観的に指摘する概念のことだからである。

C争いがあるのは,そのようなズレがあるということを前提に,その施行実態が憲法の条文の規範内容を改廃してしまうことを認めるか,という点についてである。言い換えると,「法解釈学的意義の憲法の変遷が認められるか否か」,ということである。

※否定説
・硬性憲法の「改正手続そのものに施行実態による憲法成文の変更禁止の趣旨が含まれる。」
・最高法規の論理

※肯定説
・慣習法が「条文の改廃力を持つことを一般的に容認する立場を憲法の領域にも反映させる。」
*一定の事実に規範性を承認
*主権者意思の援用
*憲法実例の反復継続&国民の承認

※習律説
・憲法実例に「規範的性格を認めるが,改廃する効力までは獲得しない。」 

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