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憲法
日本国憲法〈前文〉
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。 第一章 天皇
〔天皇の地位と主権在民〕
第一条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。 【解説】
本条は、天皇を統一された日本国の象徴として、また、日本国民が統一されてあることを象徴すべきものとして規定している。また、天皇の地位は、主権を持つ国民の総意だけに基づかなければならない。 天皇は、国民統合の象徴でなければならないため、公平性と中立性が必要とされている。そのため、天皇や皇太子には選挙権が認められていなかったり(特定の政党と親密な関係にならないようにするために)、皇太子等皇族男子の結婚についても本人の意思だけでは決定できないようになっている。 天皇は日本の元首であるかどうかについては、様々な学説上の争いがあり一定していないが、天皇が世襲であること、国事行為(第7条)という国会に拘束されない一定の権限が認められていることなどを考えると、元首と考えるのが妥当である。
〇暗記一問一答 第一条 天皇は、( ? )であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の( ? )に基く。 ?(日本国の象徴) ?( 総意 ) 第二条 〔皇位の世襲〕
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。 【解説】
本条は、皇嗣(こうしと読む。天皇の跡継ぎのことである。)についての規定である。 世襲(せしゅう)とは、その家の地位・財産・職業などを嫡系の子孫が代々うけつぐことであり、君主制の特徴である(共和国の大統領に世襲はない)。 戦前の刑法には、大逆罪(皇族に危害を加え、または加えようとしたものは死刑とする罪)というものがあったが、これは神聖不可侵とされた天皇などに対する反逆であるばかりでなく、皇位継承資格者を絶やさないための法律でもあった。 また、皇位継承資格者を維持するという理由のために、皇族費が国費から支出されている(共和国の大統領に、子弟や親族の生活維持費等は支給されない)。皇室の費用に関しては、第88条も参照。 皇位継承の資格や順序については、皇室典範に規定されている(以下を参照)。
皇室典範第2条の規定による、順序は以下である。
〇暗記一問一答 第二条(皇位の世襲) 皇位は、世襲のものであつて、( 1 )の定めるところにより、これを継承する。 1 国会の議決した皇室典範 第三条 〔内閣の助言と承認及び責任〕 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、 内閣が、その責任を負ふ。 【解説】
本条は、いわゆる大臣助言制について規定している。 つまり、天皇の国事に関する一切の行為は、天皇単独で行うことはできず、内閣の助言と承認が必要であるということである。 また、その結果についての国会と国民に対する全責任は、天皇ではなく内閣が負わなければならない。 大日本帝国憲法では、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」と規定されていた(大日本帝国憲法第3条)。神聖不可侵であるがゆえに、天皇は何らの責任も追求されなかった。イギリスにおいても同じように、「King
can do no wrong(王は悪を為しえず)」として、王は何らの責任も追及されなかった。 これらは非民主的であると言える。イギリスにおいては、「King can not do alone(王は単独ではなしえない)」という法理が作られ、大臣の助言と承認によって行わねばならないとされた。 そして、大臣と内閣は、行為の結果について連帯して国会に責任を負い、最終的に国民に責任を負う。この制度により、王の絶大な権限が民主的に統制され運用されることになるのである。 大日本帝国憲法では、「国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」という規定があった(大日本帝国憲法第55条)。国務大臣ではなく、国務各大臣となっているため、大臣それぞれが、国会に対してではなく、天皇に対して責任を負うというものである(連帯して責任を負うのではなく、個々の大臣が個々の問題について責任を負うということである)。そのため、軍の統制等について、天皇の権限を統制することができなかった(その結果は、誰もが知るところである。)。 また、本条については、第7条も参照。 〇暗記一問一答 第三条 〔内閣の助言と承認及び責任〕 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、 内閣が、その責任を負ふ。 ?内閣の助言と承認を必要とし、これの意味は天皇がどのような状況か。 A:天皇の国事に関する一切の行為は、天皇単独で行うことはできず、内閣の助言と承認が必要である その結果についての国会と国民に対する全責任は、天皇ではなく内閣が負わなければならない。 第四条 〔天皇の権能と権能行使の委任〕
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。 2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。 【解説】
本条は、天皇の行為とその限界について定めた原則規定である(本来であれば、この第4条が第3条の前に規定されているのが論理的であると言われている。)。 第1項の国事に関する行為(国事行為)とは、第6条、第7条、第15条、第41条、第67条、第68条、第73条、第79条等に関連する条文がある。天皇の国事行為については、結局のところ誰が認証・決定・授与するのかなどを注意して読まなければならない。 一般的に、天皇の国事行為は、「国政に関する権能を有しない」という規定があるため、国政に実質的な影響を与えることのない、事務的であり形式的であり儀礼的であり栄誉的である行為と言われている。 ※まとめると以下である。 ・天皇は自由意思で決定することはできない ・他の国家機関が決定した行為を、自動機械的に認証する行為である ・国政に実質的な影響を与えることはない 一般的にはこのように考えられているが、国事行為には実際的には高い段階の行政権や統治行為や残余権(残余権とは、国会・内閣・裁判所の三権に配分することができないような権限のことである。例えば、恩赦権などのことである。)などが内に含まれているし、天皇の国事行為に関しては、内閣の助言と承認が必要であり、内閣が責任を負う(第3条)と規定されている(なぜこのような厳重な規定が必要なのか。)。
つまり、天皇の国事行為とは、天皇が独断的に行うことはできず、内閣の助言と承認が必要であるが、重大な国政権限であるということである。しかし、学説などが様々あり、どの程度重大な権限があるのかは不明である。 第2項の、国事行為の委任については、第5条に基づく法律たる皇室典範第16条や、「国事行為の臨時代行に関する法律(昭和39年)」が制定されている。国事行為の委任についても、国会の統制下に置かれている。 〇暗記ポイント 第四条〔天皇の権能と権能行使の委任〕 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。 2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。 ※憲法の定める国事に関する行為のみ行うことができ、国政に関する権能を一切持たない。 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。 第五条 〔摂政〕 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。 【解説】
本条は、天皇が国事行為を行うことができない場合の摂政(せっしょう)についての規定である。摂政は、国会が制定した皇室典範に基づいて置かなければならず、憲法第4条第1項の規定が準用される。 摂政についての規定は、皇室典範第3章に規定されている。
皇室典範第22条において、天皇は18歳で成年と規定されているため、天皇が18歳未満の場合は摂政が置かれるということである。天皇に、精神若しくは身体の重患又は重大な事故があった場合も、摂政が置かれる。 〇暗記ポイント 第五条 〔摂政〕 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。 ※皇室典範の定める規定により、摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事行為を代行する。この場合は、憲法第一条の規定を準用する。
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