学習テキスト
第2章 手続の関与者
第1節 裁判所
1−1 裁判所の意義
○ 刑事訴訟を担当する裁判所の種類を挙げ、それぞれの役割について説明することができる。
・裁判所は、最高裁判所と下級裁判所に分かれ(憲法76条1項)、下級裁判所としては、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所がある(裁判所法2条1項)。
最高裁判所
・国家の統治権は、立法権、行政権、司法権の三権に分かれている(三権分立と呼ばれる)が、このうち司法権を担当するのが最高裁判所を頂点とする裁判所組織である。
・最高裁判所は日本に一つしかなく、東京都千代田区隼町が最高裁判所である。
・最高裁判所の裁判官は、1人の最高裁判所長官と14人の最高裁判所判事の合計15人で構成されている。
※法律などが憲法に合っているかどうかを判断する場合や、特に重要な問題を裁判するには15人の裁判官全員による大法廷で行われる。
⇒その他の場合は5人( 定数は3人 )の裁判官による小法廷で裁判が行われる。
・必ず大法廷判決となる。
⇒傍聴人のいない小法廷では、次々と判決が言い渡される。
・最高裁判所では、下級裁判所で調べた事件の記録を見直し、その判断が正しいかどうかを決める書面での審理が中心である。
⇒新たな事実の主張や証拠の提出は認められず、最高裁判所では証人をよんだり、弁護人と検察官の激しいやりとりはみられない。
※裁判内容は郵送で当事者へ送られる。
※最高裁が1年間に受け付ける件数は約1万件。
このうち大法廷で審理されるのは、
1,2件である件に達するという( 2014年 )。
※最高裁判所のもう一つの仕事は、事務局において、全国の裁判所の人事と予算を管理することである。
⇒下級裁判所裁判官は、最高裁判所の指名した名簿によって、内閣が任命することになっている。
高等裁判所
・下級裁判所の中では最上位。
普通は第2審にあたるものを扱うが、内 乱罪や独占禁止法違反などは第1審である。
⇒全国8ヵ所( 札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡 ) 設置される。
※通常3人の裁判官で裁判する
地方裁判所
・各都府県に1ヵ所設置されており、北海道に4ヵ所設置されている。
※事件によって1人の場合と3人の場合がある。
⇒大規模な民事事件は5人である。
家庭裁判所
・地方裁判所と同じ場所に設置されている
※事件によって1人の場合と3人の場合がある。
⇒大規模な民事事件は5人である。
簡易裁判所
・全国に438ヵ所設置されている。
※1人の裁判官が裁判をする。
○ 国法上の裁判所(官署としての裁判所)と訴訟法上の裁判所(裁判機関としての裁判所)の概念の違いを説明できる.
1)裁判所の意義
ア)国法上の意義における裁判所
@:司法行政権を行使する司法行政官庁としての裁判所
A:裁判所の全職員を含めた単位である官署としての裁判所
イ)訴訟法上の意義における裁判所
・官署としての裁判所に属する裁判官で構成される裁判権を実行する機関 である。
1−2 管轄
○ 刑事裁判の管轄について,条文に則して概要を説明することができる。
U)裁判所の管轄
1)はじめに
ア)意義
・裁判所の管轄とは、特定の裁判所が特定の事件について裁判をなすことができる裁判上の権限をいう。
・裁判所の管轄は、法定管轄と裁定管轄とに分けられ、法定管轄はさらに事物管轄、土地管轄及び審級管轄に区分されている。
イ)管轄の種類の表
@:法定管轄
(1)事物管轄 (a)簡易裁判所(裁判所法33条)
(b)地方裁判所(裁判所法24条)
(c)家庭裁判所(裁判所法31条の3)
(d)高等裁判所(裁判所法16条)
(2)土地管轄(裁判所法2条1項)
(3)審級管轄 (a)第一審(裁判所法24条、31条の3、33条)
(b)第二審(裁判所法16条)
(c)第三審(裁判所法7条)
A:最低管轄 (1)指定による管轄
(2)移転による管轄
○ 事物管轄,土地管轄,審級管轄の意義を説明することができる.
2)法定管轄
ア)事物管轄
@:はじめに
・事物管轄とは、事件の軽重や性質による第一審の管轄の分配をいう。
・事物管轄が、上級裁判所と下級裁判所とで競合する場合は、原則として、上級の裁判所が審判する(10条1項)。
・各裁判所の事物管轄は以下のとおりである。
A:簡易裁判所
・罰金以下の刑にあたる罪及び選択刑として罰金が定められている罪の他、窃盗罪・横領罪など一定の罪について事物管轄を有する(裁判所法33条1項2号)。
・ただし、簡易裁判所は、原則として禁固以上の刑を科すことはできない。
・例外として、住居侵入罪・窃盗罪・横領罪など一定の罪については3年以下の懲役を科すことができる(同法同条2項)。
・簡易裁判所は、この制限を超える刑を科すのが相当と認めるときは、事件を地方裁判所に移送しなければならない(同法同条3項、刑訴法332条)。
B:地方裁判所
・原則として、一切の事件について事物管轄を有する(裁判所法24条)。
C:家庭裁判所
・少年法37条1項に掲げる罪に関する事件(少年の福祉を害する成人の刑事事件)について事物管轄を有する(裁判所法31条の3第1項3号)。
D:高等裁判所
・刑法77条ないし79条の罪(内乱罪)に関する事件につき事物管轄を有する(裁判所法16条4号)。
イ)土地管轄
・土地管轄とは、事件の場所的関係による第一審の管轄の分配をいう。
・各裁判所はそれぞれの管轄区域をもっており、その区域内に犯罪地または被告人の住所・居所・現在地がある事件について土地管轄権が認められる(2条1項)。
・なお、現在地とは、「公訴提起の当時被告人が任意若しくは適法な強制により現実に在る地域を指す」(最判昭33.5.24)。
ウ)審級管轄
・審級管轄とは、上訴との関係における管轄をいう。
・上訴には、控訴・上告・抗告の三種類がある。
・このうち、控訴はすべて高等裁判所が管轄し(裁判所法16条1号)、上告は最高裁判所の管轄に属する(裁判所法7条1号)。
・抗告のうち、地方裁判所・家庭裁判所及び簡易裁判所の決定に対する抗告はすべて高等裁判所の管轄となり(裁判所法16条2号)、特別抗告は、最高裁判所の管轄となる(裁判所法7条2号)。
エ)関連事件の管轄(→後述)
3)裁定管轄
・裁定管轄とは、裁判所の裁判によって管轄が定められる場合をいう。
・これには、管轄裁判所が明らかでない場合の管轄の指定(15条、16条)と、本来管轄裁判所があるのに、特別の事情により、他の裁判所に管轄権を生じさせる管轄の移転(17条、18条)とがある。