学習テキスト
2−4 事業譲渡
○会社法総則における事業譲渡の意義と会社法第二編第七章の事業譲渡の意義に関する、最高裁判所の判例および学説の状況について、説明することができる。
・事業の意義(事業譲渡の意義)については、争いがある。
・会社法制定前の判例は、
商法の「営業の譲渡」(=営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること)について、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条(現在の商法16条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうもの」と定義していた。
・会社法の事業譲渡においても、この定義が(必要な修正を受けた上で)なお受け継がれていると解されている。
単なる物質的な財産(商品、工場など)だけではなく、のれんや取引先などを含む、ある事業に必要な有形的・無形的な財産を一体とした上での譲渡を指す。
※この見解は、事業活動の承継の有無により株主総会の特別決議の要否が明確にされ、取引の安全は保護されるが、承継が無い場合は代表取締役等代表者の裁量でおこなわれ、株主の保護には欠けると批判されている。
事業譲渡等
1. 事業の全部の譲渡
2. 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)
3. 他の会社(外国会社その他の法人を含む。)の事業の全部の譲受け
4. 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約
5. 株式会社の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。
U)競業避止義務
・事業を譲渡した会社(譲渡会社)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都と指定都市では区)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行うことができない(21条1項)。
V)譲受会社の責任
1)事業場の債権者との関係における効果
ア)商号を続用する事業譲受人の責任
・事業を譲り受けた会社は(譲受会社)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う(22条1項)。
イ)現物出資と会社法22条の適用
【論点と問題の所在】
●会社法22条は、事業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合の規定であり、事業の現物出資を受けて設立された会社が現物出資をした会社の商号を続用する場合には直接適用されない。では、類推適用は認められるか。認められない場合、現物出資による債務逸脱を認める結果になりかねないことから問題となる。
論証
1.確かに、事業譲渡と事業の現物出資はその法律的性質を異にする。
2.しかし、会社法22条の趣旨は、事業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、譲渡会社の債権者は債務の引受けがなされたものと信頼するのが通常であるため、そのような外観への信頼を保護する点にある。
3.そして、事業譲渡と事業の現物出資はその目的たる事業は同一であるし、いずれも法律行為により事業の移転である点で共通するため、現物出資をした会社の 債権者からみれば、商号の続用がある場合には、債務の引受けがなされたものと信頼するのが通常である。
4.したがって、事業の現物出資を受けて設立された会社が現物出資をした会社の 商号を続用する場合にも類推適用される。
≪最判昭47.3.2≫(商法百選25事件)
【事案】
・Zは個人企業を経営していたが、事故により被害者Xに対して損害賠償債務を負担していた。右Zは、その後現物出資によりY社を設立したので、XはYに対して損害賠償請求をした。第1審はXの請求を認容したが、控訴審は、ZとYが実質的に同一であるとしても、両者は法律上全くの別人格であるとして、1審判決を取り消した。これに対しXは、商法26条(会社法22条)によりYはZの債務を承継すると主張して上告した。
【判旨】
・商法26条(会社法22条)は……現物出資をしたものの商号を続用する場合に関する規定ではないが、営業を譲渡の目的とする場合と営業を現物出資の目的とする場合とでは、その法律的性質を異にするとはいえ、その目的たる営業の意味するところは全く同一に解されるだけでなく、いずれも法律行為による営業の移転である点においては同じ範疇に属するのであって、これを現物出資の目的とした者の債権者から見た場合には、その出資者の商号が現物出資によって設立された会社によって続用されているときは、……自己に対する債務もまた右会社がこれを引き受けたものと信頼するのが通常の事態と考えられるのである。
したがって、同条は、営業が現物出資の目的となった場合にも類推適用され、出資者の商号を続用する会社は、出資者の営業によって生じた債務については、その出資者とならんで弁済の責に任ずべきものと解するのが相当である。
ウ)債務引受の広告をした譲受人の責任
・譲受会社が商号を引き続き使用しない場合においても、譲受会社が譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲受会社もその債務を弁済する責任を負う(23条1項)。
2)事業上の債務者との関係における効果
・事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、外観尊重の趣旨から、譲渡会社の事業によって生じた債権について譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、効力を有する(22条4項)。
○事業譲渡の対象となる事業を構成する権利義務の承継(特定承継)について、会社の合併における権利義務の一般承継(包括承継)と対比しつつ、説明することができる。
※一般承継
・まず、一般承継とは、包括承継とも言い、他人の権利義務を「一括」して承継することを言う。
⇒例えば、相続により被相続人の権利義務を承継する相続人がその例です。 この場合承継する者(受け継ぐ者)を包括承継人といいます。
※特定承継
・一方、特定承継とは、他人の権利義務の中の「ある物やある権利という風に個別」に承継することを言います。
⇒例えば、遺言により「甲土地のみを譲り受ける場合」や「売買、交換、贈与など普通の権利を引き継ぐ者(買主や受贈者)など」を言う。
・会社の事業を別会社に引き継ぐという効果は、事業譲渡と会社分割で変わりないが、会社合併における事業に関する財産・権利義務を一括移転する(包括承継)のに対し、事業譲渡は事業に関する財産等を個別移転する(特定承継)ため、以下のような差異が生じることになる。
※契約関係(債権・債務)の移転
・契約関係を移転するには、事業譲渡の場合では、契約関係(債権・債務)の移転は個別に移転をする必要がある。
⇒債権(売掛金等)の移転には債権譲渡の手続が、債務(借入金等)の移転には債権者の承諾が必要となる。
・これに対し、会社分割では、契約関係が丸ごと全て相手方に移転されるので、相手方の同意等を得る必要はないことである。
○事業の譲渡会社の競業禁止の範囲について理解し、事業の譲渡会社が競業を禁止される理由について説明することができる。
・事業を譲渡した会社は、別に特約がない限り、その日から20年間は、同一市町村(東京都および指定都市では区になります)および隣接する市町村で、譲渡した事業と同じ事業を行うことができない。
⇒こうして譲渡会社の競業が禁止されるのは、その事業から得られるはずの譲受会社の利益を守るためです。
・事業譲渡の場合、譲渡会社の財産が譲受会社に包括的に移転するわけではなく、それぞれ個別の移転手続が必要である(上記参照)。
⇒債務についていえば、それが債務引受になります(付け加えておくと、債務引受契約が結ばれても、債権者の個別の同意を得ない限り、譲渡会社は債務について免責されないことになる)。
○事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済しなければならないとされる(会社法22条1項)理由について説明するこことができ、譲受会社が「譲渡会社の商号を引き続き使用する場合」に該当する例と該当しない例を具体的に挙げることができる。
@譲受会社(事業を譲り受けた会社)が譲渡会社(事業を譲渡した会社)の商号を続用する場合、譲渡会社の事業によって生じた債務については、譲受会社も弁済する責任を負うことになる。
イ)現物出資と会社法22条の適用
【論点と問題の所在】
●会社法22条は、事業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合の規定であり、事業の現物出資を受けて設立された会社が現物出資をした会社の商号を続用する場合には直接適用されないとされる。では、類推適用は認められるか。認められない場合、現物出資による債務逸脱を認める結果になりかねないことから問題となる。
論証
1.確かに、事業譲渡と事業の現物出資はその法律的性質を異にする。
2.しかし、会社法22条の趣旨は、事業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、譲渡会社の債権者は債務の引受けがなされたものと信頼するのが通常であるため、そのような外観への信頼を保護する点にある。
3.そして、事業譲渡と事業の現物出資はその目的たる事業は同一であるし、いずれも法律行為により事業の移転である点で共通するため、現物出資をした会社の 債権者からみれば、商号の続用がある場合には、債務の引受けがなされたものと信頼するのが通常である。
4.したがって、事業の現物出資を受けて設立された会社が現物出資をした会社の商号を続用する場合にも類推適用される。
≪最判昭47.3.2≫(商法百選25事件)
【事案】
・Zは個人企業を経営していたが、事故により被害者Xに対して損害賠償債務を負担していた。右Zは、その後現物出資によりY社を設立したので、XはYに対して損害賠償請求をした。第1審はXの請求を認容したが、控訴審は、ZとYが実質的に同一であるとしても、両者は法律上全くの別人格であるとして、1審判決を取り消した。これに対しXは、商法26条(会社法22条)によりYはZの債務を承継すると主張して上告した。
【判旨】
・商法26条(会社法22条)は……現物出資をしたものの商号を続用する場合に関する規定ではないが、営業を譲渡の目的とする場合と営業を現物出資の目的とする場合とでは、その法律的性質を異にするとはいえ、その目的たる営業の意味するところは全く同一に解されるだけでなく、いずれも法律行為による営業の移転である点においては同じ範疇に属するのであって、これを現物出資の目的とした者の債権者から見た場合には、その出資者の商号が現物出資によって設立された会社によって続用されているときは、……自己に対する債務もまた右会社がこれを引き受けたものと信頼するのが通常の事態と考えられるのである。したがって、同条は、営業が現物出資の目的となった場合にも類推適用され、出資者の商号を続用する会社は、出資者の営業によって生じた債務については、その出資者とならんで弁済の責に任ずべきものと解するのが相当である。
○事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合でも、譲受会社が譲渡会社の事業によって生じた債務の弁済責任を例外的に負わない場合について理解している。
A @の例外
a 事業の譲渡後遅滞なく、譲受会社が譲渡会社の債務につき責任を負わない旨を登記したとき。
b 事業の譲渡後遅滞なく、譲渡会社及び譲受会社から第三者に対して、譲受会社は譲渡会社の債務につき責任を負わない旨を通知した場合の、通知を受けた第三者に対して。
○事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に、譲渡会社の事業によって生じた債権につき譲受会社にした弁済の効力について、説明することができる。
※事業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社になした弁済は、弁済者が善意・無重過失のときのみ効力がある。
・事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、外観尊重の趣旨から、譲渡会社の事業によって生じた債権について譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、効力を有することになる(22条4項)。
○事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合であっても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者に対し弁済責任を負うものとされる理由について理解している。
ウ)債務引受の広告をした譲受人の責任
・譲受会社が商号を引き続き使用しない場合においても、譲受会社が譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲受会社もその債務を弁済する責任を負う(23条1項)。