学習テキスト

1-2 会社法上の主要な用語の定義等

○親会社と子会社の定義について説明することができる

※会社法上での定義
・新会社法上において、親会社、子会社は、
 
①親会社・・・株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。
(会社法2条4号)

②子会社・・・会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。 
(会社法2条3号)


○公開会社および大会社の定義について理解している。

・大会社とは、大まかにいうと、資本金の額が5億円以上であるか、または負債の額が200億円以上である株式会社のことをいう。

・公開会社とは、発行する全部または一部の株式の内容として、譲渡による株式の取得について会社の承認を必要とする旨の定款の定めを設けていない株式会社のことをいう。
⇒全部のみならず一部の株式につき譲渡制限規定がなければ公開会社とされるので、会社の承認を得ずに自由に譲渡することができる株式を1でも発行する株式会社は、公開会社とされる。

※逆に、発行する全部の株式が譲渡制限株式である株式会社は、公開会社ではない。


○会社の公告方法について理解している。

・会社は、定款で公告の方法として次の3つの方法を選択することができます。

1. 官報に掲載する方法
2. 時事に関する事項を掲載する日刊新聞に掲載する方法
3. 電子公告

※定款に上記の定めがない場合は、官報に掲載する方法となる。但し、銀行、銀行持株会社、保険会社、無尽会社等については官報による公告はできないとされる。    


第2章 総則・登記
2-1 会社の商号

○商号とはどういうものか、説明することができる。

・会社の名称を、会社法では「商号」という。
⇒商号は、個人でいうところの姓名にあたり、会社が事業において自己を表示するために表示する名称でである。

※商号は自由に決めることができる(会社法6条1項)が一定のルールが決られている。

① 同一の住所で同一の商号はNGである。
② 「株式会社」の文字を入れる
③ 支店、部署などの文字を入れることはできない
④ 公序良俗に反する文字の使用はNG
⑤ 銀行、信託、保険の文字使用


○商号単一の原則について、個人商人と会社との違いを説明することができる。

・商号単一の原則とは、会社(企業)は1つの商号しか使用できないというものである。
⇒法人の一つである会社の商号は自然人と同様、全人格を表すものだからである。

※これに対して、個人商人が数種の営業を営んでいる場合には、それぞれの営業ごとに異なる商号を使用することができます。


○商号選定自由主義の意義とその例外(会社法6条2項、3項、7条、8条、不正競争防止法2条1項1号2号、3条、4条、14条参照)について説明することができる。

・商人は、原則として自由に商号を選ぶことができる。これを商号選定自由の原則と言う。

※そこで、会社法・商法では次のような5つの制限を設けました。
① 会社商号の制限(会社法6条3項)
② 会社商号の不当使用の制限(会社法7条)
③ 営業主体を誤認させる商号使用の禁止(商法12条、会社法8条1項)
④商号単一の原則
⑤名板貸の制限(商法14条、会社法9条)


○自己の商号を使用して事業または営業を行うことを他人に許諾した会社の責任(いわゆる「名板貸人の責任」)について、その趣旨と責任の成立要件および効果を説明することができる。

・自己(名板貸人)の氏・氏名・商号を使用して営業をなすことを他人(名板借人)に許諾した者は、自己(名板貸人)を営業主であると誤認してその他人(名板借人)と取引した者に対し、その取引から生ずる債務につき、その他人(名板借人)と連帯して弁済の責を負わなければならない。
→この相手方には、善意・無重過失が必要である

※名板貸人の責任の内容
・名板貸人は名板借人の取引によって生じた債務および取引に関連して生じた債務につき弁済の責任がある。

・名板貸は、取引の安全を尊ぶ商法の代表的理念である権利外観理論が現れる規定の一つであり、以下の要件が必要である。
① 名義譲受人が名板貸人の商号を使用すること(外観の存在)。
② 名板貸人が名義譲受人に商号の使用を許諾したこと(帰責事由)。黙示による許諾でもよい。
③ 第三者の誤信(相手方の信頼)
※これについては、単なる無過失ではなく無重過失であればよいとするのが判例である。    


2-2 会社の使用人

○支配人制度の趣旨、ならびに支配人の選任およびその代理権の消滅を登記しなければならない理由について、説明することができる。

(1)支配人とは
1、支配人の定義には争いがあるが、通説的にはその権限に着目して、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人とされる(実質説)。

●支配人の意義をどのように解するべきか。21条1項は、支配人は営業主の営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有すると規定する一方で、21条3項は支配人の代理権の制限について規定していることから問題となる。

(A)実質説(通説)
 ◎支配人とは、営業主に代わって営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす包括的代理権を有する商業使用人をいう。
 ※ここにいう包括的代理権とは、商人の営業に関しその種類または事項を限定せずに包括的に授与された代理権をいう。

 ①商法上の商業使用人の類型は、営業主から授与された代理権の範囲の広狭により区別されており、支配人か否かも同様に決すべきである。
 ②21条3項は、代理権の内部的な制限について定めたものにすぎず、支配人の包括的代理権そのものを否定するものではない。
 ③営業に関して種類や時効が制限された代理権を有するにすぎない場合には、その者は支配人ではなく、表見支配人(24条)の問題となる。

 ※A説では、包括的代理権を与えられているが内部的な21条3項による制限を受けているにすぎない場合と、包括的な代理権を与えられていないため支配人ではなく、相手方は後述の表見支配人の規定により保護されるという場合の区別が難しくなる。
  この点は、個別具体的に判断していくことになるであろう。

(B)形式説
 ◎支配人とは、本店または支店の営業の主任者として選任された商業使用人をいう。
   
①実質説によれば、支配人の選任にあたりその代理権に少しでも制限を加えると、その者は支配にではなくなってしまうことになるが、これでは支配人の代理権に対する制限は善意の第三者に対抗できないとする21条3項が無意味になってしまう。
 ②実質説によれば、支配人かどうかは包括的代理権の有無という実質により決定することになるから、その認定が困難となり、取引の相手方にとって不都合である。
 ③代表取締役の場合、代表機関たる地位を前提としてその地位にある者の代表権が法定されており、支配人の場合もこれと同様に理論構成すべきである。

  イ)営業主たる商人との関係
  ・支配人は、営業主たる商人と雇用関係に立つ。

 【判例】
・雇用関係を伴わない者に支配権を与えた場合に、その者は支配人といえるかについては争いがあるが、支配人にあたらないと解するのが一般である。
 ・ただし、支配人にあたらないとする見解でも、支配人に関する規定を類推適用すべきであるとしている。

  ウ)支配人の選任・終任
  ⅰ:支配人の選任
  ・営業主たる商人またはその代理人が選任する(20条)。
  ・支配人選任行為は、通常、支配権という代理権の授与行為を結合した雇用契約であるが、すでに雇用関係にある者を選任する場合は、単に支配権を授与すればその者が支配人に選任されたことになる。
  ・会社の場合、その代表機関が支配人を選任するが、その際、株式会社では取締役会決議(会社法362条4項3号)、
・持分会社では総社員の過半数の決議(会社法590条2項、591条2項)が必要となる。

  ⅱ:支配人の終任
   ・支配人は、代理権の消滅または雇用関係の終了により終任する。

  ⅲ:登記
   ・営業主は、支配人の選任・代理権の消滅について登記をしなければならない(22条)。

※ 支配人の登記
  ・支配人の選任や代理権の消滅については,その支配人を置いた営業所の所在地を管轄する登記所で登記がなされていたが(旧商法40条,新商法22条),平成17年の改正により,会社の支店の所在地において,代表取締役や支配人の登記をする必要はなくなった。登記情報システムのオンライン化により,支店の所在地で,本店の登記簿に記載されている事項に容易にアクセスできるようになったからである。

  ※よって,支店の所在地では,①会社の商号,②本店の所在場所,③支店の所在場所のみが登記されるので(会社法930条1項・2項),支店においた支配人について,今後は本店の登記簿に記載されることになった(会社法918条)。また,支店における登記の効力に関する規定(旧商法13条)も,削除されている。


○支配人の代理権の範囲、および会社が支配人の代理権に加えた制限を第三者に対抗することができないのはどのような場合か、について説明することができる。

2)支配人の地位
 ア)支配権
 ⅰ:意義
  ・支配人は、営業主に代わり営業に関する一切の裁判上、裁判外の行為をなす包括的代理権を有し、この支配人の代理権を支配権という。

 ⅱ:支配権の内容
  a)裁判外の代理権
  ・支配人は、営業に関する裁判外の行為について、営業主の代理権を有する。
  ・営業に関するか否かは、行為の客観的性質からみて当該営業に関するものと認められるかどうかにより決すべきであるとされる。
  
 b)裁判上の代理権
  ・支配人は、営業に関する訴訟について、営業主の訴訟代理人となることができる。

 c)その他の権利
  ・支配人は、代理権のほか、委任・雇用の規定に基づき、費用前払請求権(民法649条)、費用償還請求権(民法650条)、報酬請求権(民法623条、624条)などを有する。

ⅲ:代理権の制限
 ・支配人の代理権に制限を加えても、その制限をもって善意の第三者に対抗することができない(21条3項)。
 ※支配人は営業に関する包括的かつ画一的な支配権を有することになる。
 
・代理権の制限は当事者間では効力を有し、制限に違反した支配人は営業主に対して損害賠償責任を負う。
 ・支配人の代理権の範囲は、特定の商号または営業所によって個別化された特定の営業に限定される。


○支配人について会社法12条1項に列挙されている競業等の禁止の内容が、代理商や株式会社の取締役の競業避止義務の内容と異なっている理由について、説明することができる。

イ)支配人の義務
ⅰ:営業禁止義務(精力分散防止義務)
 ・支配人は、営業主の許諾がなければ自ら営業をすることができず、また他の商人・会社の取締役、執行役、業務執行社員となることができない(23条1項)。

 ∵支配人は包括的な代理権を有し、また高級使用人として営業機密に通じるなど、営業主との間に高度の信頼関係があることから、支配人の勢力の分配を防止し、営業主の営業のために全力を尽くさせる必要がある。

 ⅱ:競業避止義務
  ・支配人は、営業主の許諾がなければ、自己又は第三者のために営業主の営業の部類に属する取引をすることができない(23条1項)。

  ∵支配人は営業主の営業機密に通じており、支配人が営業主と競争関係に立つような営業行為を行えば、営業主に多大な損害を与えることになる。

  ウ)支配人の競業避止義務違反の効果
  ・支配人がその営業避止義務に違反して競業取引を行った場合には、営業主は支配人に対して損害賠償を請求できるほか、支配人を解任することができる。


○表見支配人制度の趣旨、および表見支配人制度が適用されるための要件について、説明することができる。

3)表見支配人
 ア)意義・趣旨
 ・ある者が支配人か否かは、その者が営業に関する包括的代理権を有するか否かにより決定される(実質説)から、支店長など通常支配人に付される名称を使用している者でも、包括的代理権を有していなければ支配人ではない。
 ・しかし、取引の相手方としては、支店長等の名称が付されていれば、その者に包括的代理権があると信じて取引を行ってしまうこともあり得る。
 ・そこで、その信頼を保護するため、「営業の主任者であることを示す名称」を付した使用人については、支配人と同一の権限を有するものとみなすこととした(表見支配人、24条本文)。

  イ)要件
  ①外観の存在
   ・「営業の主任者であることを示す名称」の存在
   e.g.支店長、出張所長、支社長等
  ②営業主の帰責性
   ・営業主が名称使用を許諾しているかまたは名称使用を知りながら黙認していること
  ③相手方の信頼
   ・相手方が悪意の場合は保護されない(24条但書)。
  ④営業所の実質を備えること

a)営業所の実質の要否
【論点と問題の所在】
●24条は、「営業所」の営業の主任者であることを示すべき名称を付した使用人は、その営業所の支配人と同一の権限を有するとしているが、ここにいう「営業所」は、商法上の営業所としての実質を備えているものでなければならないか。
 
(A)必要説(判例、通説)
 ◎24条の「営業所」といえるためには、商法上の営業所としての実質を備えていることを要する。

 ①24条の趣旨は、本店・支店には営業の主任者を欠くことができないことから、営業の主任者としての外観を有する場合について取引安全を図る点にある。
 ※支店という名称が付されていても、営業所にあたる実質を備えていない場合には、営業の主任者がいるとは限らないのであるから、右の趣旨は妥当しない。

 ②24条は、「当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有する」としており、その場所が支配人を置こうと思えば置き得る営業所であることを前提にしている。
 ※この見解によると、営業所としての実質を備えていない場合で取引が行われた場合、相手方の保護は民法の表見代理の規定によることになる。
 
(B)不要説
 ◎24条の「営業所」は、必ずしも商法上の営業所としての実質を備えていることを要せず、本店または支店の外観または表示を信頼した相手方も、同条により保護される。
  
①営業所の実質が必要であるとすると、相手方はその場所が営業所の実質を備えているかどうかを調査する必要が生じ、妥当でない。
 ②24条の趣旨である外観保護を徹底すべきである。

 ≪最判昭37.5.1≫(百選30事件)
 【判旨】
 ・旧商法42条にいう「本店又は支店」とは商法上の営業所としての実質を備えているもののみを指称すると解するのを相当とするから、右のような実質を欠き、ただ単に名称・設備などの点から営業所らしい外観を呈するにすぎない場所の使用人に対し支配人類似の名称を付したからといって、同条の適用があるものと解することはできない。
  (として、A説を採用した。)

b)営業所の実質の有無の判断基準
【論点と問題の所在】
●24条の「営業所」は、商法上の営業所としての実質を備えている必要があると解した場合、どの程度の営業組織が備わる場合に営業所としての実質を備えているといえるか、その判断基準が問題となる。
 
(A)厳格説
 ◎その組織上、いつ本店から切り離されてもそのままの機構をもって従来からの業務を継続し得るだけの機構を備えていることを要する。
 
(B)緩和説
 ◎本店から離れて一定の範囲内で独自に事業活動を決定・施行し得る組織の実態を有するもので足り、具体的には、
  (1)専属の従業員がいること
  (2)その長が部下への指揮権をもつこと
  (3)帳簿が本店と別であること
  (4)営業所名で銀行に口座を有すること
  その他の諸事情を総合的に考慮して、一般取引通念に従って決定すべきである。
①営業所は、営業活動を統括するために一定の人的・物的施設を備 えた場所的中心である。
 ②支店は本店に従属する存在である。

 ≪最判昭39.3.10≫
 【概要】
 ・肥料会社の視点に従属する出張所が、相場の著しい変動あるもの以外は支店の許可を要せず仕入れをし、肥料を年間4000万円ほど販売し、出張所長の下に職員三名が勤務し、日常経費はその取立金で賄っていた場合に、支店の実質を認めた。

ウ)効果
・表見支配人の要件をみたした場合、その者は裁判外の行為については支配人と同一の権限を有するものとみなされる(24条本文)。
 ・当該営業所における営業に関する行為以外については、正当な支配人であっても権限を有しないので、相手方は保護されない。


○会社法14条1項の「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」の代理権の範囲について、支配人の代理権と対比しつつ、説明することができる。

【条文】
・事業に関する「ある種類」または「特定の事項」の委任を受けた使用人は、その事項に関する一切の「裁判外」の行為をする権限を有する。

《判例》
・銀行支店長在職中に在職していた時に貸し付けていた金員について本店審査部調査役として回収にあたっていた場合にその貸付金を被担保債権とする抵当不動産の第三取得者との間で、同不動産に関する損害担保契約を締結し、または同債務を免除して銀行の債権が回収不能となるおそれがある場合には、その調査役は、「回収事務についてのみ委任を受けた使用人」であるにすぎず、債務免除の代理権までも与えられていたものではないと解すべきである。
(最判昭51.6.30)としている。

・支配人は、通常は、「支配人」「支店長」「マネージャー」などの名称がつけられた者を指しますが会社から「包括的な」「制限のない」代理権を与えられていれば支配人とするというのが通説である。

・支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有するわけですが、「裁判上の行為」としては、会社の訴訟代理人となり訴訟行為を行うこと、訴訟代理人(弁護士)の選任を行うことなどができます。

・「裁判外の行為」としては、事業に関して代理人を選任することや他の使用人を選任し、解任することなどの権限を有します。(会社法11条2項)

※そして、支配人の代理権に制限を加えたとしても取引の安全を図る目的から、その制限は、善意の第三者には対抗できないとされます。  (会社法13条)

※また、支配人の代理権の範囲については、「本店の登記簿」において、その支配人が代理権を有する本店・支店を登記しなければならないとされている。


○物品の販売等を目的とする店舗の使用人の代理権の範囲について理解している。

・物品の販売等(販売・賃貸その他これに類する行為をいう)を目的とする店舗の使用人は、その店舗にある物品の販売等をする権限を有するものとみなされる(15条本文)。

・ただし、相手方が悪意であった場合は別である(同条但書)。

・店舗従業員が接客した場合、店主の権利を代行したものと、見なされるという意味となる。

※例えば商品の値下げの決定権は、本来所有者である店主にあり、店員にはないのですが、もし、店員が店主に断りなく、顧客に値下げを行なったとしても、その値下げは有効だという事になる。

・ただし、これを悪用し、店員と顧客が結託し、不当に安価で、販売を行なったような場合は、その値引きは無効だ、という事になるのです。