学習テキスト

第1章 会社の概念
1−1 会社の意義と種類


○法人格否認の法理とはどういうものかを説明し、最高裁判所が、当該事件の解決のために会社の法人格を否認することができる場合として例示する事例を挙げることができる。

◆法人格否認の法理
・法人格否認の法理」とは、会社の法人格を「特定の事案に限り」、 その事件の解決に必要なときは法人格を無視し、法人とその背後の社員とを同一視して取り扱う法理をいう。

※会社法に明文はありませんが判例により認められています(最S44.2.27)。

たとえば債務者が強制執行を免れるために、自己の財産を出資して会社を設立するような場合のような場合に使われる。

【参考】
※判例上、主に法人格の濫用または法人格の形骸化が認められる場合に、この法理が認められている。

@濫用事例
・競業避止義務を負う個人が会社を設立し、この会社は別人格でありますとしてこの会社に競業取引をさせる場合。個人と会社とを同一視し、会社にも競業避止義務を認める必要がある。

A形骸事例
・個人企業(親父一人で商売している八百屋さん)が法人企業(会社)となることを「法人成り」といいます。この場合、形式的には両者は別人となりますが、実質的には同一である。


○定款所定の目的により会社の権利能力が制限されることを説明することができる。

◆定款所定の目的による制限
民法は、法人は定款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負うとします(民法43)。
⇒会社も法人であり、また民法は一般法ですから、会社にもこの民法の規定が類推適用されるかが問題となる。

※類推適用とされるのは、民法は「公益」法人の規定なので、「営利」法人である会社には、直接には当てはまらないからである。

@類推適用肯定説
・会社も定款で定めた目的の範囲内においてのみ権利を有し義務を負うと解する説です。

(説明理由)
・法人は一定の目的の下に組織された団体ですから、その目的の範囲内で権利や義務が持てるとしてやれば足りること。
・社員もその目的の範囲内での活動を期待して出資していること。
たとえば、おいしいパンの製造・販売する会社と思って出資したのに、会社が不動産取引をすると出資者である社員の期待に反します。
・目的は登記によって公示されているので、こう解しても取引の安全を害することはないこと。

A類推適用否定説
・定款の目的により営利法人たる会社の権利能力は制限されないと解する説です。

(理由)
・肯定説だと、現実に目的外取引が行われた場合、それは権利能力外の取引として会社に効果が帰属せず(無効)、それでは取引の安全が害されることを理由とする。

B判例の立場
・判例は肯定説に立っている
(最S45.6.24 八幡製鉄政治献金事件)。

※しかし、取引の安全を考えて、目的を緩やかに解して、定款に記載(記録)されている目的たる事業及びその事業を達成するのに必要な行為はすべて目的の範囲内にあるとします。

そして事業を達成するのに必要な行為か否かは、会社代表者の主観的意図ではなく「行為の客観的性質」から判断すると判示している。

従って現実の訴訟で目的の範囲外で無効とされます例はまずないといわれています。 


○会社が「営利法人」であることを、商人であるための要件である「営利性」と対比して説明することができる。

◆営利法人と商人の要件「営利性」
・営利を目的とするとの意味は、会社が企業活動により、利益を得ることのみをいうのではなく、その活動から生じた利益を社員に分配することを含まれる。

※自己の名をもって「商行為をすること」を業とする者のことを「商人」というと商法では規定している。
⇒会社が「自己の名をもって」その事業をするかどうか、会社法5条には特に明記していないが、会社法3条によって

(法人格)
第三条 会社は、法人とする。
と言っているので、会社はそれ自身が「人」と同じように行為をすることが出来るということになる。
⇒このため、会社の事業も「その会社の名をもってする」ということになるので、『会社は商人である』という結論になる。


○会社法における4種類の会社の特徴について説明することができる。

・会社法の会社の種類は、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の4種類。合名会社・合資会社・合同会社は、「持分会社」と総称され、その規制の下に置かれる。

※合名会社
1、無限責任を負担する社員のみから構成される会社形態。日本の会社法においては持分会社の一類型とされている。合名会社の商号中には、「合名会社」という文字を用いなければならない(会社法第6条、旧商法17条)。

※合資会社
1、日本法上の合資会社は、法人格を有するのが特徴であり、会社法においては、持分会社の一類型とされる(575条1項、576条1項5号)。なお、会社法施行に伴い改正される前の商法においては146条に規定があり、合名会社の変種として規定されていた。

2、合資会社にあっては、有限責任社員であっても、株式会社などの社員(株主)のような間接有限責任ではなく、会社債権者に対して直接責任を負う直接有限責任社員であるとされる。ただし、会社に対し出資を履行した場合は、その価額の分については間接責任となる(580条2項)。

※株式会社
1、細分化された社員権(株式)を有する株主から有限責任の下に資金を調達して株主から委任を受けた経営者が事業を行い、利益を株主に配当する、法人格を有する企業形態である。

※合同会社
1、平成18年(2006年)5月1日施行の会社法により新しく設けられた会社形態である。

合同会社の内部関係はシンプルな設計であり、社員全部が有限責任ということもあり、新規設立が認められなくなった有限会社に代わって今後多く設立されることが見込まれる会社形態である。


○会社が商法4条1項の商人となることを説明することができる。

・会社法は,会社が商人であるかどうかについて規定を置いていない。
⇒最判平成20年2月22日(民集第62巻2号576頁)は,会社は,商人であると判示している。

・この事案は,特例有限会社である甲会社を債権者とし,乙を債務者とする債権を担保するため,乙所有の不動産に抵当権が設定されていたのあるが,乙が,原審第1回口頭弁論期日において,当該被担保債権につき商法552条による5年の消滅時効が完成しているとしてこれを援用したというもの。そこで,商法522条の適用が問題とされたものである。

商法522条
商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,5年間行使しないときは,時効によって消滅する。ただし,他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは,その定めるところによる。

商法4条1項
この法律において「商人」とは,自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。

会社法5条
会社(外国会社を含む。次条第1項,第8条及び第9条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とする。

・「会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とされているので(会社法5条),会社は,自己の名をもって商行為をすることを業とする者として,商法上の商人に該当し(商法4条1項),その行為は,その事業のためにするものと推定されるからである(商法503条2項。同項にいう「営業」は,会社については「事業」と同義と解される。)。

・前記事実関係によれば,本件貸付けは会社であるYがしたものであるから,本件貸付けはYの商行為と推定されるところ,原審の説示するとおり,本件貸付けがAのXに対する情宜に基づいてされたものとみる余地があるとしても,それだけでは,1億円の本件貸付けがYの事業と無関係であることの立証がされたということはできず,他にこれをうかがわせるような事情が存しないことは明らかである。

※そうすると,本件貸付けに係る債権は,商行為によって生じた債権に当たり,同債権には商法522条の適用があるというべきである。」