学習テキスト
特別権力関係論
○特別権力関係論について説明できる
T)特別権力関係の概念と特別権力関係論
1)はじめに
・特別権力関係という概念は、「一般権力関係」に対して立てられた概念である。
2)「一般権力関係」と「特別権力関係」、「特別権力関係論」の意義
・一般権力関係
:一般市民の等しく服すべき国・地方公共団体などの一般統治権の発動に かかわる関係をいう。
・特別権力関係
:官吏(公務員)の勤務関係、国公立の学校・病院・図書館といった公の営造物の利用関係、監獄における囚人の在監関係など、国民が特別の原因に基づいて通常の一般市民が国や地方公共団体に対するのとは異なった特別の規律に服する関係をいう。
・特別権力関係論
:特別権力関係についての議論の体系である。
3)特別権力関係の具体例とされるもの
・管理(公務員)の勤務関係、国公立の学校・病院・図書館といった
公の営造物の利用関係、監獄における囚人の在監関係などがある。
○特別権力関係の諸性質について説明できる
U)特別権力関係の諸性質
1)
・特別権力関係たるそれぞれの社会関係の管理者は、その関係に属する者に対して包括的な命令懲戒権を有し、当該関係の設定の目的とされたところを実現するうえで、必要な事柄を一方的に命じたり、また、当該関係の設定目的に反するような非違行為に対して懲戒罰(懲戒処分)を科したりすることができる。
・このことを、「特別権力関係における人の権利義務の定めは法規の概念に含まれない」、とか、「特別権力関係における権利・自由の制限には法律の留保が及ばない」、と表現することがある。
2)
・人権とりわけ自由権に関する憲法の保障は、本来、一般市民の一般市民としての地位についてのものであり、「特別権力関係における命令権・懲戒権の行使に対しては、それらの保障は及ばない」とされる。
3)
・特別権力関係たる社会関係の内部で生じた問題に対しては裁判所の裁判権が及ばないとされる。
○特別権力関係論への批判について説明できる
V)特別権力関係論への批判
1)批判1
・特別権力関係の理論とは、沿革的に見て、
「立憲君主政の下、君主に代表される行政権の、立法権および司法権に対する独立固有の権能を、できるだけ確保しようとする目的の下に成立してきたものであって、国民主権の原理が確立し法治主義の広く妥当している日本国憲法の構造の下では、存立の基盤を失っている。」
2)批判2
・確かに、通常「特別権力関係」と称されているような諸関係については、さまざまな実際上の必要から、
「制定法規が一般の法解釈と異なった特殊の定めをしている場合があり、また、実際に法解釈論上特別に解釈すべき必要がある場合が少なくない。」
・しかし、このような特殊規定は、それぞれの場合において、個別具体的に合理的な理由がある限りにおいて立法されたものであり、また、解釈されるべきものなのであって、一般権力関係とは本質的に異なる「特別権力関係」なるものの性質から抽象的に導き出され、説明されるべきものではない。
○従来の「特別権力関係」と称されてきた法関係の性質論について説明できる。
W)従来「特別権力関係」と称されてきた法関係の性質論
1)はじめに
・特別権力関係論を批判する見解の中にも、従来「特別権力関係」と称されてきた法関係の性質を考えるにあたり2つの考え方がある。
2)1つの考え方
・たとえば公務員の勤務関係について現在、国家公務員法・地方公務員法等が詳細な定めをおいていることにも見られるように、
「少なくとも、現在の我が国の法律上、かつて特別権力関係であったものは一般権力関係化された、」という考え方。
3)もう1つの考え方
・従来「特別権力関係」とされてきたもの、たとえば、公務員の勤務関係・国公立学校の在学関係等は、そもそも「権力関係」として性格付けられるべきものではなく、「一種の契約関係でしかない、」という考え方。
※この見解からは、従来、支配者と服従者とされた当事者間の関係は、本質的には契約に基づいた平等関係なのであり、ただ、その具体的必要に応じて命令権とか懲戒権のようなものが認められているにしても、それは私的企業・私立学校等においても同じことである、ということになる。
○特別権力関係論の現在の考え方について説明できる。
X)特別権力関係論の現在
1)現在の議論
・特別権力関係論をめぐる議論は、法関係の一方の当事者に包括的な支配権能の認められる特殊の社会関係ないし特殊法関係の存在することは否定しないが、その支配権の内容と範囲とは、それぞれの具体的な法関係の性質と目的とによって決まり、
この法関係の性質と目的とは、国または公共団体(行政主体)がそこに当事者としてかかわっているか否かとは本質的に関係がない、
という考え方になってきている。
2)現在の議論における留意点
・この「特殊の社会関係」または「特殊法関係」で適用すべき法原理の具体的内容を考える場合に、国または地方公共団体がその当事者としてかかわっているか否かの違いを完全に無視してよいかどうかは、「現代我が国の行政法において「公と私の区別」というヨーロッパ近代法のカテゴリー一般が完全に意義を失ったと考えるかにかかわる問題」といえる。
※この意味で、「特別権力関係論批判は、伝統的な公法私法二元論批判の一部としての性格をもっている」ということができる。