学習テキスト

法律による行政の原理

○法律による行政の原理について説明することができる。

T)法律による行政の原理の意義

1)意義(→用語集)
 ・行政は、
行政機関独自の判断で行われてはならず、国民の代表である議会が定めた法律に従ってのみ行われなければならないことをいう。

2)法律による行政の原理の確立とその重要性
 ・法律による行政の原理は、
「絶対君主制を打破して登場した近代立憲主義国家において確立されたものであり、行政法の全体を貫く最も重要な原理」である。

U)趣旨
1)はじめに
 ・法律による行政の原理は、「自由主義と民主主義」の2つの原理から要請される。
 
2)自由主義的要請
・行政活動を
国民の代表者により制定された法律に従わせることにより、公権力の恣意的な介入を防ぎ、国民の自由・権利の保護を図ることが目的である。

 ⇒法律が君主と国民の双方を拘束するものとなる(法律の両面拘束性)


○法律による行政の原理の内容について説明することができる。

T)法律の優位の原則
1)意義(→用語集)
・行政活動は、「法律の定めに違反して行われてはならない」とする原則をいう。

2)妥当範囲
  ・法律の優位の原則は、行政活動が法律に従って行われる以上当然のことであり、行政活動全般にわたって妥当する原則である。
※権力的・非権力的活動を問わず、また、個別具体的な処分か否かを問わない。

3)根拠

(A)多数説
◎日本国憲法41条の国会は国権の最高機関であるという条文中に法律 の優位の原則が含まれている。

(B)少数説
◎法律の優位の原則は、「日本国憲法が西欧型近代立憲主義 憲法の基本的構造をもつことから導かれる」当然の帰結である。

4)法律の優位の原則と慣習法
・法律の優位の原則からして、法律に違反した行政実務が相当期間継続して行われたとしても、それが法的に拘束性をもった慣行として認められることにはならない
(最判昭60.11.8参照)。

→そこで、行政法の分野においては慣習法が成立することは困難であるといわれる。

・しかし、慣習法の成立が否定されるのは、「法律による行政の原理」と抵触する限りにおいてであり、既存の法律に反さず、また「法律の留保の原則」にも反しない限り、慣習法の成立する余地が理論的にないわけではない。


○法律の留保の原則についての問題と学説について詳しく説明できる

U)法律の留保の原則

【論点と問題の所在】
法律の留保の原則とは、「行政活動にはその根拠となる法律の存在が必要である」という原則をいう。

※この原則から、「行政活動はすべて、各省設置法、地方自治法などの行政組織法により確定された権限分配の範囲内において行われなければならない。」

※そこで、いかなる行政活動に作用法上の法律の根拠が必要か問題となる。

(A)侵害留保説(行政実務)
国民の自由・権利を権力的に制限ないし侵害するような行政活動に限り法律の根拠が必要である。

◎行政活動を、単に法律の機械的執行にとどまるものではなく、行政主体の独自の判断に基づき「行政目的を追求する自律的な作用」と捉え、行政活動が原則として自由なものであることを前提とする。

@自由主義原理の見地からは国民の自由および財産が侵害される行政活動について法律の根拠を要求すれば足りる。
Aいかなる行政活動に法律の根拠が必要か、その基準が明確である。

(批判)
@⇔日本国憲法のもとでは、自由主義とともに、民主主義が重要な憲法原理となっているが、「侵害留保説では、行政権に対する民主的コントロールという、民主主義の理念からするアプローチは希薄である。

自由と財産の侵害にあたらない限り、国会のコントロールを受けることなく行政が自由に活動し得ることとなると、一方において行政の民主的コントロールからして問題である。

A⇔法律の根拠がない行政活動によって国民の現実、あるいは将来の生活 が規定されてしまう。

たとえば、「補助金の交付のような授益的活動や、営造物の設置のよう な国民の権利・利益と直接かかわりのない活動に法律の根拠を不要とすること」は、これらが国民の税金の利用であり、間接的に国民の権利・利益にかかわることがある点で問題がある。

B⇔公害規制のような、ある国民にとっては利益になるが、他の国民にとっては侵害となるような行政活動も少なくなく、「侵害行政と授益行政を機械的に二分することは妥当でない。」

(B)全部留保説
◎国民の権利・自由を制限するものであるか、国民に権利・利益を与えるものであるかを問わず、「行政活動にはすべて法律の根拠が必要」である。

・自由主義原理のみならず、民主主義原理をも徹底すべきであるから、
「あらゆる行政活動に法律の根拠を要求すべき」である。

(批判)
@⇔複雑化した現代の行政需要に臨機応変に対応することができなくなるか、これを回避するために、結局のところ包括的な授権立法をするという結果となる。

A⇔法律だけが民主国家における正当性の淵源であり、
行政主体には民主的正当性が一切ないかのように論じるのは妥当ではない。

(C)権力留保説
◎侵害的なものであると授益的なものであるとを問わず、「行政活動が権力的な行為形式によって行われる場合には、法律の根拠が必要」である。

※侵害留保説との違いは、権力的行為であれば授益的行為についても法律の根拠を必要とするところにある」(たとえば補助金交付の「決定」など)。

・一切の権力の淵源はこれを国会の制定する法律に求めなければならないとして 民主主義的観点を強調する一方、全部留保説に対する批判を踏まえて一定の行政活動の自由領域を承認する。

【批判】
⇔補助金の交付など授益的行為の多くは非権力的なものであって、この説によれば事実上授益的行政活動には法律の根拠が不要となってしまう。

⇔行政の現代的手法としてその重要性を増している行政指導などの非権力的な行政活動が、すべて法律の留保の原則の枠外に置かれることになってしまい、侵害留保説に対する正面からの批判にはなっていない。

(D)社会留保説
 ◎侵害行政に加えて、「給付行政について法律の根拠を必要」とする。

(E)本質性留保説
◎国民の権利・自由にとって本質的な事項について法律の根拠を必要」とする。

(E´)塩野説(本質性留保説と類似)
◎侵害領域における法律の留保の原則は維持するとして、これに加えて、「我が国民の将来の生活を規定するようなもの(たとえば国土開発計画)については、国民の法的利益への直接の影響とは無関係に、我が国の民主的統治構造との関係からして法律の根拠を要する。」

※実際の行政活動は侵害留保説によっており、たとえば、生存者叙勲は行政の一方的判断で決定されるが法律ではなく政令に基づいて行われている。侵害的でないからというのが政府見解である。

※行政実務について、「政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない」という内閣法11条の規定も侵害留保説によっているものであることがうかがえる。


○法律の留保の原則において根拠となる「法律」について説明できる

V)法律の留保の原則において根拠となる「法律」
 
・伝統的な法律の留保の原則において、そこで要求される法律の根拠とは、「根拠規範」としての性格をもつものでなければならず、「組織規範」あるいは「規制規範」では足りないとされる。

 ※根拠規範とは、「行政活動の実体的要件・効果を定めた規範を指す。

※組織規範とは、「行政機関の所掌事務を定める規範、いわゆる権限配分規定」をいう。

※規制規範とは、「行政が活動できることを前提として、その実施の適正を図るために定められた規定」をいう
(その中にも目的を定めた目的規範、手続を定めた手続規範がある)。


○法律の(専権的)法規創造力の原則について説明できる

1)意義
 ・法律の法規創造力の原則とは、「国会で制定する法律だけが、国民の権利義務に関する規律である法規を創造出来る。」という原則のことである。

 ※行政のみのよって権利義務を生成させるとすれば、国民からのチェックが機能しなくなってしまう可能性があります。

それで、国会によって制定される法律によってだけ、権利義務に関する法規を定めることができるという原則を採用している。

国会議員は選挙によって国民によって選ばれるので、この原則によって行政をチェックできると考えられる。

2)趣旨
・この原則は、「法規の創造は国民代表機関である国会に独占されるべき」とすることにその趣旨がある。

※ただし、今日、行政権にも一定の規律の下に法規を定立することが認められ、行政権に法規を制定する権限が一切認められないわけではない。